――社員の方たちと接するときに意識していることはありますか。

あまり社員には伝えていないのですが、「フランクに仕事ができたらいいな」といつも考えています。

当社の社長室はほとんど幹部の会議室となっていて、私が執務デスクに座るのは週に10分あるかないかといった程度です。マーケティング本部長を兼務しているので、社員たちがいるフロアに専用デスクと6人がけのミーティングテーブルを用意してもらって、そこにいることが多いですね。すぐ近くに秘書やマーケティング本部の社員たちがいて、役員も声が届く範囲内に座っています。

社員からいつでも声をかけられる場所にいるだけでなく、自分からもよく声をかけてまわります。

今年7月に「eコマース」関連のシステムを大規模改修しました。プロジェクトルームは私のいるフロアとは別の階にあって、多いときで1日に4~5回は「何か変わったことはない?」と足を運びました。いまでも1日に1回は自分から顔を出します。「みんなの仕事はちゃんと見ているよ」「一緒にやろうとしているよ」と率先垂範でフランクに接しています。

――フランクであることのメリットは何でしょうか。

できるだけ情報をオープンにし、みんなが同じ目線で現状を把握できることは重要です。

同様に「仲よく仕事しよう」というメッセージも伝えています。難しい課題があっても、それぞれの立場で知恵を出せば解決することもある。誰もが役割を果たすなかで、仲よくなれるというのが私の持論です。そのような体験は、会社への愛着を深め、仲間への信頼感を高めます。自己肯定感も出てくるでしょう。メリットはたくさんあります。

――「フランクに」「仲よくする」などのメッセージが伝わりやすいですね。

私は大学卒業後にダイエーに就職し、故・中内功さんのもとで秘書部長を務めた時期があり、その経験が活きているように思います。基本的に秘書は、担当するボスに仕えますから、組織で動くことはほとんどありません。一人ひとりの緊張感が高く、同僚たちと意識的に交流しなければ孤立しやすい仕事です。上司としては「いざというときにはサポートするよ」という姿勢を示し、信頼関係を築いておくことで孤立を防がなくてはいけません。そうでないと、大切な情報も入ってこなくなります。

ノーネクタイではあるが、ネクタイ型のピンブローチでさり気なく相手への気づかいを

――現在、トップとして取り組んでいる課題は何でしょうか。

私が社長となって2年目の今年、第2期中期経営計画がスタートしました。当グループは業績の低迷期を経験し、2013年に創業者の池森賢二が経営に復帰して、2015年度からの第1期中期経営計画でV字回復しています。その好業績を次の3年間以降につなぐためには、決めた計画をやりきる実行力が必要です。

そこで第2期には「『実行2020』~未来をつくる~」という計画を掲げました。2020年は、当社にとって創業40周年の大きな節目です。既存事業の成長を維持しつつ、収益性にこだわって、海外事業の本格成長に向けた基盤固めの時期と位置づけています。

――その中期計画を推進するために、社内でどのようにアプローチされていますか。

「ALL‐FANCL,ONE‐FANCL」のスローガンを掲げています。当社は研究開発、商品企画、製造、販売を一気通貫で手がけているので、部門ごとの最適化ではなく、総合的な最適解を出して総合力を発揮していくことが大切だからです。

私は社長に就任した17年4月に持株会社体制を解消し、ファンケル、ファンケル化粧品、ファンケルヘルスサイエンスを1つの会社に統一しました。同時に、事業会社ごとに進めていた戦略立案、商品企画、広告宣伝などの機能を一本化してマーケティング本部を設置して、私が本部長を兼務しました。

組織構造がシンプルになり、部門間の調整も減って、意思決定のスピードはアップしました。

――ファンケル流の業績を伸ばす秘訣をお聞かせください。

創業者の池森は「売らない勇気をもて」とよく話してきました。直営店舗にお出でになったお客様でも、もし当社の商品が合わないのなら無理にお売りしない。そういう実績は長つづきしませんから。

むしろそういう姿勢が、お客様の満足度とブランドへの信頼を高めるのだと考えています。

――社員の方たちには、どのように情報発信されているのでしょうか。

社内のイントラネットで毎週月曜日に「島田レポート」という記事をアップしています。私はよく店舗をまわるので、その感想などが多いですね。

毎週火曜の午前10時からは、15分ほどの放送朝礼を流しています。声だけの生放送で、社員たちは自分のデスクで聞いています。月初なら先月の売上状況を伝え、新製品情報や経営課題を話すこともあります。

――自社製品を試されることは多いのでしょうか。

自社製品は自分でもよく使いますし、商品開発の担当者から試験的に試すように言われることもあります。


例えばサプリメントは、「ハイグレードビタミン」「ビタミンB群」「ビタミンC」「ビタミンE」「DHA&EPA」「えんきん」「酵素にんにく卵黄」「内脂サポート」などを主に飲んでいます。

化粧品も、メイク品以外は使っていますね。特に新製品は、男性役員もみんな使用して効果を確認しています。もともとスキンケアを使う機会は少ないですから、どのアイテムをどのタイミングで使うかなどを担当者に指導してもらいます。

使用前後の肌状態が測定されるので、結果を出さなければいけない(笑)。9月にリニューアルした基礎化粧品を使用したら、「35歳女性よりもハリが改善している」というデータが出ました。スキンケアは使用実感があって面白いですね。

愛用のスキンケア商品。左の美容液は女性向けだが、男性が使用しても効果は抜群。右は男性向けのスキンコンディショナーと洗顔フォーム
お腹周りが気になる中年男性におススメなのがこちらの体重体脂肪を減らすサプリメント。「半年間はしっかり試してほしい」と島田社長は話す

――ダイエー時代には、衣料品の売り場にもいたことがあるそうですね。

ダイエー入社時は、当時あった広島駅前店で紳士・子供用品の売り場を担当してました。店長から「流行の品も扱っているんだから、ボタンダウンはもう卒業しろ」と言われ、それから2年間はボタンダウンが着られませんでした。そのうえタック付きのパンツを履かされたり、パーマをかけさせられたり。襟がシャツから離れているだけでものすごく居心地が悪かったですね(笑)。

そのあと1981年に開催された神戸ポートアイランド博覧会で、天津館に勤務しました。広島にはなかったJ.PRESSのショップが、神戸の三宮にはありました。うれしくて真っ赤なブレザーを買って、通勤に着ていたほどです。あの半年間は、まさにお祭り気分でした(笑)。

島田和幸/Kazuyuki Shimada
株式会社ファンケル代表取締役 社長執行役員 CEO
1955年生まれ、同志社大学法学部を卒業。79年にダイエー入社。2001年にダイエーを退社し、マルエツに勤めたあと、03年にファンケルに入社。17年4月に代表取締役社長CEOに就任。

text:Top Communication
photograph:Sadato Ishiduka
hair & make:RINO