「一見ふつう、よく見ると高感度」な起毛系生地をねらう

ビジネススタイルのカジュアル化が進んだ今、肩パッドを入れず芯地も極力薄くしたアンコン仕立てのスーツはごく当たり前になっている。何しろ窮屈さがなく、着心地がいい。重要な商談時やプレゼン時などは除くとして、日常の仕事時に着るにはもってこいだ。そんな中でも、一見ふつうっぽいのに「おや、よく見るとちょっと違う?」と思わせる、ひねりが効いたスーツを選ぶ。これも大人のビジネススタイルの楽しみ方のひとつといえるだろう。

そんな視点から今回の着こなしを紹介する。ネイビーの無地スーツに同系色のネクタイの組み合わせ自体はビジネススタイルの王道といえるが、今っぽい柔らかさを感じるのはジャケットがジャージー生地のアンコン仕立てだから。裾に向かって細くなるテーパードラインのパンツも今らしさ満点だ。

そしてこのスタイルの「ちょっと違う」点が、起毛系の生地を取り入れていること。表面を毛羽立たせたふんわりと柔らかな風合いの起毛生地は、正統的な着こなしのたたずまいに今の空気を加味してくれる今季注目の生地だ。

全身画像
ジャケット6万9300円 セットアップパンツ3万3000円 シャツ2万9700円 ネクタイ1万7600円 ベルト1万6500円 靴・参考商品(すべて税込)/すべてマッキントッシュ ロンドン(SANYO SHOKAI カスタマーサポート TEL:0120‐340‐460) ポケットチーフ4950円(税込)/麻布テーラー(Y&Mプレスルーム TEL:03‐3401‐5788)

前回の連載でも触れたとおり、ふわりと起毛した生地は着こなしに優しさや温かみを与えてくれ、秋冬の季節感を出すのにも役立つ。起毛系の生地はこれまでビジネスシーンでは必ずしも必要とされていなかったが、服装の自由度が高まっている今なら取り入れやすい。

Vゾーン

Vゾーンも柔らかさを重視。シャツはウールとコットンの混紡、ネクタイはウールでともに起毛した生地を選び、スーツと質感を統一させた。カジュアル度が高めのボタンダウンシャツを合わせたこともポイントで、アンコンスーツのリラックス感と相性がよい。このスーツとシャツの組み合わせの場合ノータイだとさすがにリラックス度が過ぎてだらしなく見えてしまうので、タイドアップをおすすめしたい。ここではスーツに合わせてネイビーのソリッド(無地)タイで上品にまとめた。

スーツ衿元

きちんと見えるのにラク。機能の進化が止まらないスーツの世界

今回選んだのはマッキントッシュ ロンドンの「FLEX JERSEY(フレックスジャージー)」シリーズのセットアップスーツ。ジャージー素材をテーラリングの技術で仕立てた、リラックス感ときちんと感を兼ね備えた一着だ。

パンツのウエスト部分に注目したい。ドローストリング仕様でデザイン的にも今風だし、ある程度ならサイズ調整が効くのもうれしい。このドローストリング、ベルト着用時はパンツの内側に収納できるので、デスクワーク時はドロストで、外出時はベルトを締めて、と使い分けができる。背面のみシャーリング仕様になっているのも履きやすくてよい。

パンツのウエスト部分

ウール56%、ポリエステル44%の軽量なツイルジャージー生地で、肘膝が出にくく形態安定性も併せ持つ。表面には、薄く毛羽を残しつつ柔らかくしなやか、かつシルクのような上品な光沢を出すミルドシルキー加工が施されている。さらに毛玉が生じにくい抗ピリング加工も施され、普段遣いに耐えうる頼もしさも魅力だ。今回はネクタイを合わせたがノータイの着こなしにも適しており、一着あると重宝するだろう。

ジャケット

昨今はどうしても着心地が重視されるスーツだが、デイリーワーク用としてもきちんと見えることは大前提。仕事着であるという認識のもと、あくまで仕立てはしっかりしているものを選びたい。そのうえで今らしさを求めるなら、起毛生地は要チェックだ。「清く正しく、そして柔らかく」を念頭に、新しいスーツを探しに出かけよう。

photograph:Masahiro Okamura
fashion direction:Hiroshi Morioka
hair & make:Ryohei Katsuma
edit & text:d・e・w