「感情を揺さぶる」クルマ

日本で2018年11月9日に販売開始されたBMW(ビー・エム・ダブリュー)8シリーズに、まず欧州で試乗した。低い車高に長い全長を持つ2プラス2シーターのクーペである。

全長4855ミリ、全幅1900ミリ、全高1345ミリの2ドアクーペボディ

ポルトガル・リスボン近郊で乗ったのは、4.4リッターV8搭載の「M850i xDrive」だ。235kW(320ps)の最高出力と680Nmの最大トルクを持つパワーユニットにフルタイム4WDシステムを組み合わせている。

一般公道でもサーキットでもすばらしく気持ちのいいドライブが体験できた。「感情を揺さぶる」とBMWが表現しているとおり、ルックスがよく、かつ走りも爽快である。

全長4843ミリに全高は1341ミリに抑えられた車体は伸びやかで、上下幅の薄いヘッドランプにキドニーグリルが新しいイメージだ。

バンパー一体型のエアダムは、高性能モデルに与えられる「M」の文字を車名からイメージできるとおりで、走りも期待どおりというかんじだった。

リアアクスルに組み込まれた電子制御式ディファレンシャルロックがすばやいコーナリングを可能にしている

テストドライブのコースは、リスボン周辺の高速道路と、山岳路と、海岸線と、変化に富んでいた。山では道幅が極端に狭いので神経をつかう場面があったが、総じて、トルクがたっぷりあるエンジンの恩恵を感じられる体験になった。

7シリーズと共用というプラットフォームを持つ大型クーペなので、小型スポーツカーで得られるカミソリのような操縦感覚はない。

しかし、加速していくときに太いトルク感が車体をどーんと押しだしていく感覚は、さすが多気筒エンジンの醍醐味だ。

サスペンションはしなやかに動く。BMWの「M」は昨今とりわけ硬めの足回りの設定だが、このクルマは快適さとスポーティさがうまくバランスされている。

このクルマがもっとも美しく見える角度のひとつ

1990年に発表された初代8シリーズクーペもトルクのあるエンジンに適度にスポーティなハンドリングの組み合わせでいいクルマだった。今回の2代目はその部分を継承して、うまく現代的に仕立て直しているともいえる。

けっして快適志向一辺倒でないのは、ポルトガルのエストリルサーキットを走ってみてわかった。予想以上に速い。

8気筒エンジンは上までよく回るうえ、8段のオートマチック変速機が加速や減速に合わせてうまくギアを選んでくれる。加速はするどく、上の回転まで引っ張っていきたいときは、レッドゾーン手前までエンジンは気持ちよく回るのだ。

キドニーグリルは薄くなり大型化したエアダム一体型バンパーとともにアグレッシブな印象だ

操縦席は低めの着座位置だが視界はけっして悪くない。周囲の状況は確実に把握できるし、ステアリングが正確なので、どんな状況下でもクルマをコントロールできる。オールマイティなのだ。

電子制御技術もたくみに採り入れられている。電子制御のダンパーを持つアクティブサスペンションシステムに、やはり電子制御のアクティブスタビライザーを組み合わせているのだ。

さらに「Mアクティブディファレンシャル」により、コーナリング時の俊敏性を高めている。小さなコーナーではノーズが内側を向いた次の瞬間に、前輪の駆動力で前に強く引っ張り、同時に後輪は大きな力で車体を前方に押していく。

8段スポーツトランスミッションにはクリスタルを使ったシフトノブが組み合わされている

新しい世代のインフォテイメントシステムが組み込まれているのも特長だ。「BMWオペレーティングシステム7.0」といい、10.25インチのディスプレイは機能が拡張している。

とりわけ指によるスワイプとプルダウンの機能を積極的に採り入れている。運転中に目的地を確認したりラジオ局を選択したりも、やりやすい。

シートはベンチレーション機能つきメリノレザーで、メーターパネルには12.3インチの液晶が使用され地図表示もできる

近い将来、「ヘイ、BMW」と呼びかけるとクルマが応答し、さまざまなコマンドが音声で行えるボイスコントロールも搭載されるようだ。

ようするにおとなが毎日乗って楽しめるラグジュリアスなクーペなのだ。価格は1714万円(税込)。来年にはコンバーチブルも導入されそうだ。

トランクルームは容量もたっぷりある

小川 フミオ/Fumio Ogawa
慶應義塾大学文学部卒。複数の自動車誌やグルメ誌の編集長を歴任。そのあとフリーランスとして、クルマ、グルメ、デザイン、ホテルなどライフスタイル全般を手がける。寄稿媒体は週刊誌や月刊誌などの雑誌と新聞社やライフスタイル誌のウェブサイト中心。

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