ウイスキー談議に時間を忘れるほど。吉村氏とビル博士

【吉村】やわらかいといえば、グレンモーレンジィは仕込み水が硬水ですが、こんなに味わいがやわらかい。アードベッグは軟水仕込みなのにガツンとしている。ウイスキーと水の関係はどうなっているんですか?

【ビル】ウイスキーの味わいやフレーバーを決めるのは、麦芽、酵母、樽という要素が大きいです。水の影響はそれほどでもありません。ただ、ミネラルに富んだ硬水の影響は、グレンモーレンジィのようにデリケートなウイスキーにはわかりやすく出ると思います。

例えば、グレンモーレンジィの仕込み水でアードベッグを仕込んでも、きっとその影響は出ないでしょう。アードベッグは麦芽の風味が強烈で、微妙な違いがわからなくなるからです。

グレンモーレンジィのフルーティーな香りは、発酵中に生まれるものなんですよ。ミネラル分の多い水(硬水)だと、酵母が活性化して、香りをたくさん生むんです。そういう意味で、硬水仕込みは、グレンモーレンジィの微妙な香りに影響していると言えます。

【吉村】水で割って飲むときは、仕込み水に合わせて硬水で割ったほうがいいのですか? それとも軟水のほうがいいのですか?

【ビル】加水するときは軟水がいいですね。ミネラル分のある水ですと、ウイスキーの純粋な味わいがわかりにくくなるからです。

【吉村】ハイボールのときは、どんなソーダが?

【ビル】わたしはハイボールも好きですが、どのソーダを入れるにしても、ウイスキー本来の味わいは変わります。ハイボールはミックスド・ドリンク=カクテルですからね。こういうソーダがいいとは、なかなか申し上げにくいですが、バーテンダーの方がふつうに使われているソーダがいいですね。

アードベッグ10年の、わたしの好きな飲み方のひとつが、じつはハイボールです。炭酸の気泡が、あのウイスキーの隠された甘みを引き立ててくれるからです。

【吉村】お話ししていると、グレンモーレンジィとアードベッグをすごく飲みたくなってきました。お訊きしたいことはたくさんありますが、今日は、このあたりで。どうもありがとうございました。

ビル・ラムズデン博士/Dr. Bill Lumsden
1995年にグレンモーレンジィ・カンパニーの蒸留所のマネージャーとして入社、98年には早くも最高蒸留・製造責任者に就任。バイオケミストリー(生化学)の博士号取得という科学的知見と、芸術性の両分野での才能を発揮し続けている。世界屈指のウイスキー・クリエイターとして、個人でも数多くの賞を獲得している。

吉村喜彦/Nobuhiko Yoshimura
1954年、大阪生まれ。京都大学教育学部卒業。79年4月、サントリー入社。宣伝部に配属。輸入酒担当として、I.W.ハーパーなどのバーボンのソーダ割りキャンペーン、ジャック・ダニエル、山崎、響などの広告を制作。TV・CMでは、井上陽水の「角瓶」、ミッキー・ロークの「リザーブ」、和久井映見とショーケンの「うまいんだな。これがっ」の「モルツ」などヒット作を連発。97年1月に、独立して、作家に。

interview & text:Nobuhiko Yoshimura
photograph:Tadashi Aizawa