着実に進むシチズン時計の世界戦略

時計業界にはいくつかのグループがある。ブレゲ、オメガなどを擁するスウォッチ グループ、カルティエを中核としてヴァシュロン・コンスタンタンやIWC、A.ランゲ&ゾーネが属するリシュモン グループ、ルイ・ヴィトンを筆頭にウブロ、タグ・ホイヤーなどを傘下に持つLVMH グループなどである。それぞれに共通するのは、手ごろな価格帯から高額品まで幅広い価格帯のブランドをそろえ、どんな層の顧客にも訴求できる体制を整えている点である。

こうした巨大グループは、スイスをはじめ欧州やアメリカを拠点とするものがほとんどだが、じつは日本にもグループ化を目指す会社がある。それがシチズン時計(以下シチズン)だ。シチズンと聞くと国産時計を扱う会社と思う人が多いかもしれないが、この10年ほどは海外のブランドやグループの買収を進め、グローバルな時計グループへの基盤を固めつつある。2008年に、かつて音叉時計で世界に名を知らしめたアメリカ・ブローバ社を買収。12年にはアーノルド&サン、アンジェラスという高級時計2ブランドと、ムーブメント製造会社であるラ・ジュー・ペレを所有するスイスの時計会社、プロサーホールディングを傘下に収めている。

そして2016年、またしてもシチズンが動いた。スイスの時計会社、フレデリック・コンスタント グループの買収を発表したのである。同グループは、フレデリック・コンスタント、アルピナ、アトリエ・デモナコ(2017年現在、日本では未展開)という3ブランドから成り、それらすべてがシチズンの傘下に入った。

買収の狙いは明らかだ。シチズンが主力商品とするクオーツ時計は低価格帯のものが多く、一部の限定品や特別モデルを除けば、高くてもせいぜい30万円ほど。一方、これまでに買収した海外ブランドの大半は機械式時計を主力とし、価格帯は数十万円から1000万円を超えるものまである。スイス勢の存在感が大きい機械式時計や高価格帯の市場で知名度を高めるのが狙いと見ていい。

では、一方のフレデリック・コンスタント グループはなぜシチズンを選んだのか。世界を見渡せばほかに時計グループはいくつもあるにもかかわらずだ。同グループの社長でありフレデリック・コンスタントのブランドトップも兼務するピーター・C・スタース氏に聞いた。

シンプルなアイデアが大ヒットモデルに

買収の話の前に、まずは主力ブランドのフレデリック・コンスタントについて触れておく。同ブランドは1988年に現CEOのピーター・C・スタースが、スイス・ジュネーブ郊外のトアネに本拠を構えたことに端を発する。休暇でスイスを訪れた際に目にした腕時計に心を打たれ、「スイスメードの高品質な腕時計をもっと多くの人に届けたい」との思いから創業に至った。

転機となったのが、創業から6年後の1994年に発表した「ハートビート」である。ダイヤルの一部を丸くくり抜いて内部のムーブメントを見せたモデルが大ヒットし、ブランドの名を一躍時計業界に知らしめた。そしてこれを機に、マニュファクチュール(自社一貫生産)・ムーブメントの製造にも着手する。

「ハートビートは時計の表面からでも機械式時計だとわかるように工夫したもの。機械を見せるならやはり自信が持てるもの、自社で設計・開発したムーブメントを入れたいと思った。私がマニュファクチュールと呼ぶのは次の3つの条件をクリアしたもの。1.デザインと開発が自社によるもの、2.大半のパーツが自社製、3.ムーブメントの組み上げが自社によるもの。すべてのパーツが自社製ではなく、例えばネジ、ルビー、ひげぜんまいなどは外部のものを使用しているものの、デザイン、設計、開発、組み上げを自社で行っていることが重要だと考えている。ケースやダイヤルについては、デザイン・開発・設計は社内で行うが、製造は専門工房に外注している」

ハートビートは瞬く間にブランドのアイコン的モデルとなったが、と同時に業界内に多くのフォロワーを生んだ。もはやダイヤルをくり抜いて内部を見せる意匠が自社のアイデンティティーと呼べなくなった2000年代半ば以降は、創業時からの理念である“手の届くラグジュアリー”に基づいて高機能な機械式時計の開発を推し進める。パーペチュアルカレンダー*やフライバッククロノグラフ**といった付加機能を手ごろなプライスで提供し続けている。

*パーペチュアルカレンダー:月による日数の違いや、閏年の調整などすべてのカレンダー表示が、2100年まで修正不要のカレンダー機構。永久カレンダーともいう。

**フライバッククロノグラフ:クロノグラフの一種。クロノ作動中にストップボタンを押すとクロノ針が帰零し、離すと再び時間計測を始める機構。

一方のデザイン面では、クラシックテイストが一貫している。モダンなテイストやインパクトの強いデザインで奇をてらうようなことはない。

「私自身がクラシカルなデザインを好んでいる。例えば、パテック フィリップはまだ買えないけど、非常にクラシックで美しいスイスメードの時計を着けたいという若者は少なくない。そういう人に向けて時計をつくりたい」