サザビーズ時計部門グローバルヘッドのサム・ハインズです。前回は、日本の郊外に住むお客様・X氏のご自宅にお邪魔していろいろなお話を聞いたこと、そのお話には、時計オークションに参加される日本のお客様の2つの特徴がよく表れていたことについて書きました。

この夜、満を持してテーブルに出されたX氏の時計は、1930~80年代製の2つのヴィンテージ・パテック フィリップと、スポーツタイプのロレックス5つ。4月のオークションに向け、まさに私たちが求める時計たちです。7本のヴィンテージウォッチを手に取り、「この後の時間もますます楽しくなる!」と私は確信しました。

X氏が出品したヴィンテージウォッチ7本。2本がパテック フィリップ、5本がロレックス。

出品作品の査定は、知識を総動員しての真剣勝負

ここからがオークションハウスのスペシャリストとしての私の仕事になります。オークションの前には必ず、出品作品の査定を行います。査定とは、時計本体のディテールの特徴を確認するだけではありません。私自身の時計経験値や頭の中にあるデータを取り出し、そこにその時計が辿ってきたお客様の知りうる来歴情報を加え、付属品の有無を確認し、当時の販売価格、その後のセカンダリー(中古)市場価格の推移を踏まえて、予想落札価格(エスティメート)の下限と上限を設定し、出品者様にお伝えするプロセスです。

付属品や鑑定書の有無なども、出品価格を大きく左右する要因だ。

今回のケースでは、この中の数本がヴィンテージ・ロレックス本に掲載されていた現物であったため、その場で機械体の拡大画像も見ることができました。本のおかげで私自身の力量が試される機会は少なかったわけですが(笑)、それでも所有者様の目の前で、根拠と共に自分が付けた価格をお伝えするのは、何万回経験してもとても緊張し身が引き締まります。併せて出品条件をその場で提示して交渉し、幸いにも早々に出品機会を頂くことができました。X氏のコレクションである7本の時計に対するエスティメート(落札見積価格)下限値の合計は15万ドル(約1620万円)でした。

日本で発売されたヴィンテージ・ロレックスの本。X氏のコレクションのうち何本かの詳細については、この本で確認できた。

香港だけでなく、シンガポール、台湾、バンコクでも展示

こうして出品者様からお預かりした時計は、オークション開催地へ輸送後、専門カメラマンが撮影してWebサイトやカタログ、Eカタログを通し全世界へ出品作品として配信されます。つまり、契約が結ばれた日からオークション開催日までが期間限定の営業期間となるわけです。

関心を持っていただいたお客様には、コンディションレポートのご案内や詳細写真をお送りします。またどの分野のオークションでも、開催日前の1週間は全出品作品を展示する下見会を開催して、実際に手に取って現物をご確認いただく機会を設けています。X氏のコレクションの場合は開催地・香港での下見会に加え、近年ヴィンテージウォッチに強い関心が集まるシンガポール、台湾、タイ・バンコクの下見会でも展示をしました。こうした取り組みにより、出品者様と同じように時計を愛するアジアの多くのお客様に対して、実際に出品される時計を手に取り、その質を確かめ、リサーチできる機会をより多く設けました。

コレクション合計で2900万円で決着

こうして迎えた、4月2日のオークション開催当日。下見会場で感じた熱気、また世界中から集まる事前のお問い合わせの数で、ご売却成立に対しては自信を持って臨みました。書面による事前入札、会場での入札、電話入札、オンライン入札と4種類の入札者が競り合い、結果としてコレクション合計で27万ドル(約2900万円)の売上を達成することになりました。


サザビーズのオークションページに掲載された、X氏のヴィンテージ ・パテック フィリップ。この時計はエスティメート下限値108万5580円で出品され、288万3573円で落札された。

あの夜のような幸福な出来事と、400年にわたる歴史をもって進化し続ける時計の素晴らしさに触れることができる瞬間、時計オークションのスペシャリストというのは、自分が愛する時計を通してさまざまなお客様とお会いできる、本当に幸運な仕事だと改めて思います。セカンダリー市場の価格は急激に変化しますし、また競合各社の競争も熾烈です。日々に忙殺されがちな中、X氏という忘れがたい日本紳士と巡り会えたことに感謝するとともに、これからも日本で素敵な出会いが続くことを願っています。

text:SAM HINES