車と腕時計の関係を語るなら、まず筆頭に挙げなければならないブランドがタグ・ホイヤーである。かのスティーブ・マックイーンが映画撮影で着用した世界初の角形防水クロノグラフ「モナコ」をはじめ、伝説的なF1ドライバーのアイルトン・セナが愛用した時計に着想を得た「リンク」、そして往年のカーレーサーたちから信頼を集め、2017年に復刻された「オータヴィア」など、車との結びつきを示すモデルは数多い。

中でも、車との関わり合いの深さ、その歴史の長さという点で特記すべきが「タグ・ホイヤー カレラ」である。ここで取り上げたのは、2016年に発表された「タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー01 クロノグラフ」だ。

この時計に刺激を受けるのは、こんな男だ!


・車、モータースポーツ愛好家
・存在感の強いデザインを好む人
・チャレンジ精神の持ち主

45mm径の大振りなケース、文字盤を廃して内部機構を見せたシースルーダイヤル、つややかなセラミック製ベゼルなど、全体に前衛的なデザインが際立つ。そして内部には自社製の自動巻きクロノグラフムーブメント、キャリバー ホイヤー01を搭載。外観のみならず中身も含めて、21世紀のタグ・ホイヤーの“顔”とも言えるアイコニックなクロノグラフである。

ブレスレットはステンレススティール製。湿度が高い日本の夏場でもダメージを気にすることなく使用できる

この「カレラ」は、モデル誕生時から車の世界とともにあった。1930年代以降、ヨーロッパではモータリゼーションが急速に進み、それまでは特権階級のものだった車が次第に一般市民へと普及していく。その流れの中で、より速く走る、またはより過酷な環境を走り切るというカーレースが誕生し、欧米諸国を中心にいくつものレースが開催されるようになった。

1960年代になると、こうしたカーレースの世界に着目した時計メーカーがいくつか現れる。20世紀初頭から車用のダッシュボード・クロノグラフなどを製造していたタグ・ホイヤーもその一つだった。ブランド創業家の4代目当主ジャック・ホイヤーは、自らレースに出走するほどの車好きも高じて、カーレース向け腕時計クロノグラフの製造に乗り出す。彼がイメージしたのは、当時世界で最も過酷といわれ、レース中に死者が出て中断を余儀なくされた「カレラ・パナメリカーナ・メキシコ」へのオマージュだった。

カレラ・パナメリカーナ・メキシコは1950年代前半に行われた公道レース。総走行距離300km超。あまりの過酷さから中断を余儀なくされた

タグ・ホイヤー初となるこの腕時計クロノグラフが完成したのは、1963年のこと。スペイン語でレースを意味するカレラと名付けられたこの時計は、耐衝撃性と防水構造に優れた新しいケース構造が採用され、ダイヤル外周部には1/5秒目盛りのフランジが設けられた。ダイヤルには2つのカウンターを配置するのみで、無駄なものを削ぎ落として必要最小限の要素に絞った、視認性に優れたクロノグラフだった。

カレラのファーストモデル。レース中でも経過時間がひと目でわかるよう、余分な機能や装飾は一切省かれた

その後、カレラは多くのカーレーサーたちの手元で輝きながら、55年以上にわたって車の世界との関わりを深めながら歴史を築いてきた。冒頭の現行モデルとオリジナルを比べるとデザインの面では隔世の感があるが、現行モデルをつぶさに見ていくと、例えば内部のムーブメントをブラックに加工して視認性を確保するなど、誕生時の哲学を現代的に解釈しながら受け継いでいるのが見て取れる。過去に範を求めながらも、新地平を切り開こうとする前衛的な精神は一貫して変わることがない。ビジネスの世界でも新しさを求め、果敢に挑もうとするチャレンジングな精神の持ち主によく似合うクロノグラフである。

働く男を刺激するクロノグラフ#6
タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー01 クロノグラフ」

ケース、ブレスレットはステンレススティール。ケース径45mm。自動巻き。100m防水。59万5000円(税別)

1963年にブランド初の腕時計クロノグラフとして誕生した「カレラ」は、現在、タグ・ホイヤーの先進的な技術がいち早く投入される主軸コレクションとなっている。安定性に優れるコラムホイールを採用した自社製の自動巻きクロノグラフ、キャリバー ホイヤー01を搭載して2016年に発表されたのがこのモデル。ベゼルには高硬度のセラミックが用いられた。パワーリザーブは約40時間。

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