働き方や働く環境において各人の個性や自由、自主性が尊重されるようになった昨今、ビジネススタイルもまた自由度が高まっている。これまで仕事着の主流だったビジネススーツからジャケット&パンツへ、あるいはブリーフケースからバックパックへと、より軽快な方向に移行してきた。そうした流れを受けて、ビジネスシーンで着用する腕時計の選び方もまた変化しつつある。

軽快な装いに合わせる腕時計を選ぶなら、その筆頭に挙がるのがクロノグラフである。一昔前であれば、オンビジネスの装いにふさわしい腕時計とは2針・3針のシンプルウォッチが定石であり、スポーティーな印象が強いクロノグラフはタブーとする風潮もあった。しかしながらビジネススタイルのカジュアル化が進む昨今にあっては、ビジネスシーンでクロノグラフを目にしても何ら違和感がない。

むしろ選び方によっては、シンプルウォッチにはない威力を発揮するのがクロノグラフだ。たとえば控えめで上品なデザインを選べば、ビジネスに欠かせない品格を保ちながら、アクティブなパーソナリティーを主張することもできる。連載で取り上げたモンブランやブライトリング、ロンジンのクロノグラフなどはその好例だろう。上品なシンプルクロノは、オン・オフ問わずに着用できる点もまた魅力だ。使い勝手の良さからすれば、高級時計の最初の1本にこうしたクロノグラフを選ぶのもまた賢い選択となるだろう。

モンブラン「モンブラン スターレガシー ニコラ・リューセック クロノグラフ」
ブライトリング「プレミエ B01 クロノグラフ 42」
ロンジン「ロンジン マスターコレクション」(Ref.L2.629.4.78.3)

さらに、腕時計の中でも自身の趣味嗜好がより強く打ち出せる点もまた、クロノグラフならではの醍醐味である。時刻を表示するという腕時計本来の役割から離れ、経過時間を計測できるという特殊な機能を持つクロノグラフは他分野とのつながりが強く、その誕生までの経緯やその後のストーリーに稀有なエピソードを持つモデルが少なくない。

本連載で取り上げたモデルで言えば、航空界に貢献したブライトリング、ミルスペックを追求したブレゲ、モータースポーツの世界とともに歩んできたタグ・ホイヤー、人類初の月面着陸に使用されたオメガのクロノグラフなどは、着用者の嗜好を如実に物語るモデルとなる。

ブライトリング「ナビタイマー 1 B01 クロノグラフ 43」
ブレゲ「タイプXXI 3817」
タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー カレラ キャリバー ホイヤー01 クロノグラフ」
オメガ「スピードマスター ダーク サイド オブ ザ ムーン アポロ8号」

また、複雑系クロノの先鞭をつけたIWC、100分の1秒の計測精度に到達したゼニス、12時間までのラップタイム計測を可能としたA.ランゲ&ゾーネのクロノグラフであれば、ビジネスにおいても最高峰や最先端を追求するメンタリティーの象徴にもなるだろう。

IWC「ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダー・クロノグラフ」
ゼニス「デファイ エル・プリメロ 21」
A.ランゲ&ゾーネ「トリプルスプリット」

原型となる機構がつくられてから100年超、クロノグラフの発展はいまだ留まることがない。時計の機能は数あれども、これほど長きにわたって進化し続けるものはほかに見当たらない。つまるところ、クロノグラフとは前進し続ける男のシンボルとなる腕時計だ。いま、働く男たちに推挙する一番の理由もここにある。

text:Hiroaki Mizuya(d・e・w)