TAKEO KIKUCHIは今季、「Product Notes Japan」をテーマに「絣(かすり)織り」を使ったスーツを展開している。まだらに染めた糸を織ることで浮かび上がるのは、文字通りかすれたような紋様。江戸後期から明治期には晴れ着に用いられていたという伝統的な織物。現代的に生まれ変わったこの一着を、取引先との顔合わせや商談会など、ここ一番の晴れの舞台で袖を通すのは理にかなっているといえるだろう。

縁起物の「矢絣(やがすり)」をモチーフにした杉綾風の織り柄や、チェック柄やストライプ柄を絣で表現した「絣格子(かすりごうし)」「絣縞(かすりじま)」など。生地の織り上げも色出しも日本国内で行うため、イギリスやイタリアのそれとは異なる「和」のニュアンスがにじみ出ている。

「矢絣(やがすり)」は、ツイード生地などに見られるヘリンボーンストライプにも通じるクラシックな味わいがある。むら染めした糸を使いコントラストを抑えた、遠目には無地にも見える落ち着いた色柄は、ビジネススーツとしても着用できる。

このスーツにはもうひとつ、着る人にとって心強い味方が添えられている。それがブートニエールだ。ブートニエールとは、フォーマルなジャケットの下襟のボタンホール(フラワーホール)に挿す花飾りのこと。ビジネススーツでは、ここに社章を留めることが多いだろう。

近年は様々な遊び心あるモチーフのブートニエールをスーツやジャケットの付属品としてリリースする海外ブランドが増えているが、TAKEO KIKUCHIでは絣織りスーツのフラワーホールに、神事や慶事で使われる水引で作られたブートニエールが飾られているのだ。

手がけたのは伝統工芸・博多水引のデザイナー、長澤宏美氏。伝統を打ち破る自由な色の組み合わせと大胆な造形のアレンジで水引をアートの域に昇華させた作風が、従来の水引の概念を覆したと話題の人物だ。今回、TAKEO KIKUCHIからのオファーにより、梅の花をモチーフにした水引細工のブートニエールを考案した。

手作業でしか作り出せないため、人の手の温かみを感じさせることもまた繊細な水引細工の魅力の一つだ。グローバルな舞台で闘うビジネスマンにとって、伝統工芸でもある水引は日本人であることの矜持を抱かせることだろう。水引は、邪気を払い浄化するという願いが込められているもの。縁や幸福を結び留めておく意味もあり、ビジネスにおける人と人との縁をも結んでくれるに違いない。

タケオ キクチ

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text:Yasuyuki Ikeda(zeroyon)