品よく個性も出すならクラシックに限る
一昔前は42mm径を超えるような大型ケースが高級時計の主流だったが、この数年は各社ダウンサイジングを図り、直径38mm前後のケースも多く見られるようになった。昔ながらの時計愛好家には小径好きが多い。そもそもクラシックウォッチの正統は小径であることに加え、ダイヤルのスペースが小さいため凝縮されている感がある、ケースとムーブメントのサイズが合致しているモデルが多いなど、総じて余分や無駄のないプロダクトである点がマニア心をくすぐっている。
ドイツ・グラスヒュッテの高級時計メーカー、A.ランゲ&ゾーネは今年、小径クラシックのお手本ともいえる新作を発表した。それが「1815」である。既存モデルは38.5mm径と、これでも十分に小径の部類だが、新作はそこからさらに4.5mmサイズダウンした34mm径。クラシックを貫徹した顔つきは、これみよがしなデザインとは対極に位置し、どこまでも奥ゆかしい。組織の要職に就く者や、社会的地位の高い者がこんなアンダーステートメントな時計を着けていたら、それだけでどこか思慮深い人となりが見えてくる。


この1815は、A.ランゲ&ゾーネを創業したフェルディナント・アドルフ・ランゲの生年から命名されたコレクションで、そのデザインは彼が生前に残した懐中時計を範とする。全体に上質なクラシシズムが息づくのはそのためだ。わずかに段差のついた幅細のベゼル、レールウェイタイプの分目盛り、アラビア数字インデックス、ランセット型針といった古典由来の意匠がわずか34mm径の中でバランスよく調和し、シンプルでありながらつい見入ってしまうほどの豊かさがある。

もう一つ、特筆すべきが新開発のムーブメントである。この1815のために開発された手巻きのキャリバーL152.1は、既存モデルに搭載されているキャリバーL051.1より小型・薄型化されているにも関わらず、パワーリザーブは55時間から72時間へと延長された。ビジネスから解放されるウィークエンドに、1日や2日巻き上げずとも動き続ける安心感がある。テンプ受けのハンドエングレービングをはじめ、4分の3プレートに施されたグラスヒュッテストライプ、ビス留め式ゴールドシャトンなどが織り成す美観は、どんな時計でも変わることのないランゲがランゲたりうるエステティクスである。


問い合わせ情報
A.ランゲ&ゾーネ
TEL:0120‐23‐1845
photograph:A. LANGE & SÖHNE
edit & text:d・e・w