“クアトロ”が与えた2つの衝撃
機械式時計を何本か所有していると、気に入りの時計であってもしばらく着用しない日が続くことがある。周知のとおり、機械式時計はぜんまいを巻き上げなければ、いずれ運針が停止する。現行品のほとんどは2~3日であれば動き続け、4~5日経過しても止まらないモデルも増えてきたが、1週間となるとどうか。一部の時計を除き、ほとんどの時計はぜんまいの残量が切れて止まってしまう。
その数少ない例外の中で、1週間を経過してもゆうに余力を残すモデルがある。最大巻き上げ時なら9日間も動き続けるロングパワーリザーブの決定版が、ショパールの「L.U.C クアトロ」である。同モデルは2000年に初めて登場して以来、時代のニーズに合わせてマイナーチェンジが図られてきた。そして今春のウォッチズ&ワンダーズ・ジュネーブでは、3度目のマイナーチェンジを施した第4世代となる新作、「L.U.C クアトロ‐マーク IV」が発表された。
圧倒的なロングパワーリザーブを備えるためか、既存のL.U.C クアトロは伝統と気品を重視する「L.U.C」コレクションの中では、どちらかといえばツールウォッチ調のデザインだった。だが、今回のマイナーチェンジでは、ケースフォルムをよりスリムに再設計し、文字盤の12時位置にあったパワーリザーブ表示をムーブメントのブリッジ上に移すなど、全体にエレガントな方向へとアップデートされた。ジュネーブ・シールとCOSCの認定をともに取得している点は、2000年の誕生時から一貫して変わらない。



今から四半世紀前の2000年、このL.U.C クアトロの登場は業界に2つの衝撃を与えた。1つは、高精度と長時間駆動を両立したことである。やや専門的な話になるが、理論上では機械式時計はテンプの振動数を高めれば精度は上がるが、その分ぜんまいが速くほどけ、駆動時間が短くなる。逆に、テンプの振動数を下げれば、精度は期待できないが駆動時間を延ばすことができる。
そうした常識を覆したのが、このL.U.C クアトロだった。振動数を落とさず、COSC認定の高い精度を維持しながら、9日間という超ロングパワーリザーブを実現したのである。秘密はぜんまいの数にある。通常は1つのところ、ぜんまいが入った香箱を縦に2つ積み重ね、さらにそれを2基、つまり4つの香箱を設置する独自のクアトロテクノロジーにより、それまで相いれないものと考えられていた高精度と長時間駆動を両立してみせたのだ。

さらに、この画期的な発明をショパールがやってみせたことに時計関係者は驚いた。これが2つ目の衝撃である。ショパールが高級機械式時計の製造に本格的に踏み切ったのは1990年代になってからのことで、それからわずか10年足らずで前代未聞の機構を完成させた。新進のマニュファクチュールが一躍、頂点的な一角へ。歴史の長さだけがブランドの格を決めるわけではないことを、鮮やかに証明してみせたのである。
このL.U.C クアトロは、その後、高級時計の老舗たちをロングパワーリザーブ開発へと向かわせた点で時代を画するタイムピースであるが、その顔つきは誕生時から至って控えめ。華美に飾り立てることがなければ、過剰に主張することもない。真の実力者ほどその力をひけらかさないというスタンスもまた、エグゼクティブにおあつらえ向きである。

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