英国の伝統柄を現代的な気分で着こなす
スーツの本場と言えば、イギリスもしくはイタリアが挙がるだろう。ただ、そもそも16世紀にスーツの原型が生まれたのも、19世紀中期に今の形のスーツが生まれたのもイギリス。「英国のスーツ」「英国のドレスコード」を知らずにはスーツのことは語れない。
今回は、歴史あるイギリスのプライドを感じるような英国調のスーツを着こなしてみよう。英国調の特徴はなんと言ってもシルエットにある。肩パッドがしっかりと入ったジャケットの構築的なシルエットは体形補正効果が高く、着る人を精悍に見せてくれる。パンツもしっかりとクリースが入ったもので、端正であるとともに脚をまっすぐきれいに見せる効果がある。
もうひとつ、英国らしさを象徴するのがこちらのグレン・チェック柄だ。元祖は白黒だがコントラストが強めで難度が高いため、今回はコントラストを弱めたライトグレーのグレン・チェック柄をチョイス。ポイントはネイビーのオーバー・ペーン(チェックの上にチェックを重ねた柄)で、伝統的なグレン・チェックのスーツにモダンな空気をプラスしている。
Vゾーンも今らしく、明るく洗練されたスタイルでまとめている。シャツは淡いサックスブルーのストライプ柄。ネクタイは今季のトレンドでもある、オレンジがかったライトブラウンの小紋柄。ネクタイの柄の色を拾った艷やかなポケットチーフをクラッシュドスタイルで挿し、休日感のある彩りを添えた。ひと目でセンスのよさが伺える装いだが、ビジネススタイルとしてはかなり洒落度高め。そのためレセプションパーティなどの華やかな場や、逆に誰にも会う予定がなく密かに楽しめる内勤時など、シーンを選んで着こなしたい。
王室に愛されてきたグレン・チェックのスーツ
ここで本スタイルの要であるグレン・チェックのトリビアをご紹介。グレン・チェック(Glen check)とはグレナカート・チェック(Glenurquhart check)の略で、スコットランド北部の「アーカート(Urquhart)峡谷(Glen)」で織られていたことから名付けられた。白黒を基調に、千鳥格子とヘアラインを組み合わせて細かい4種類のチェック柄が大きなチェック柄を形成するという、結構複雑で奥深い柄だ。
地方に伝わるこの柄に目をつけたのが、英国ダンディズムの模範として今も語り継がれるウィンザー公爵。彼が皇太子(プリンス・オブ・ウェールズ)時代に、グレン・チェックにブルーの一本格子柄を重ねた新しいチェック柄を好んで着るようになったという。今で言うトレンドセッターが愛用する新しいグレン・チェック柄は、その名も「プリンス・オブ・ウェールズ」として定着するに至った。
ちなみについ先日英国国王に即位したチャールズ3世もまた、元プリンス・オブ・ウェールズ。大叔父であるウィンザー公と同じく洒落者として知られ、グレン・チェックのスーツを粋に着こなす姿も目撃されている。グレン・チェックは英国ロイヤルに愛されてきた柄なのだ。
そんなグレン・チェックのスーツに合わせたのが、黒スエードのチャッカブーツ。スエード素材はもともとカントリースタイルで用いられていたもので、さらにチャッカブーツはポロ競技用の靴として19世紀中頃に誕生したもの。装いにカジュアルでリラックスした雰囲気を与えてくれる。
格式ある英国の、しかも洒落者から愛されてきた、古くて新しいグレン・チェックのスーツ。ビジネスウエアのカジュアル化が進む今の時代だからこそ、ここはひとつモダンな英国紳士になりきった着こなしを思い切り楽しんでみてはいかがだろうか。
photograph:Masahiro Okamura
fashion direction:Hiroshi Morioka
hair & make:Ryohei Katsuma
edit & text:d・e・w