大手企業の方々との取引も多いエンタープライズビジネスでは、クリエーティビティだけでなく、お客様に対して信頼感を持っていただくことも重要です。私は多くの経営者ともお目にかかる機会が多いので、やはり信頼感を伝えるスーツが基本です。今日は、とある講演会でスピーチの機会をいただいた際に「麻布テーラー」でオーダーしたスーツを選びました。シャツやカジュアルな既製服は一年に数回出張するアメリカで購入しますが、スーツは日本でオーダーしています。「麻布テーラー」を選ぶ理由は、身長の高い私にもしっかりフィットし、ストレスを感じない仕立てを叶えてくれるから。シャツは「ブルックス ブラザーズ」のものを愛用するようになりました。ちょうどいいフィット感と素材感、そしてしわになりにくいので気に入っています。靴はいろいろと履いてきましたが、たどり着いたのは歴代アメリカ大統領にも選ばれてきた「アレン・エドモンズ」でした。

仕事では常に変化を求めていますが、服はいつも同じブランドを選んでいますね。自分の印象を形づくる武器として、試行錯誤を経て信頼できるものを自然と選んでいるのかもしれません。上に立つ者として、周囲には動揺を感じさせるわけには行きませんから。

組織、あるいは社員個人の持っている潜在能力をどれだけ引き出すことができるかが私の最大の使命だと考えています。これは、現在のCEOであるサティア・ナデラが定めたマイクロソフトの企業ミッションでもあります。同じ環境や組織の下で、一度成功した方法を続けていると仕事が楽になりますよね。それでは今までなかったようなアイデアや価値は生まれてきません。楽な道ではなく、困難だとしても新たな可能性のある道を選んでほしい。社会やテクノロジーがめまぐるしく動く現代において、自分が快適に感じる“コンフォートゾーン”に閉じこもり、変化を怠る姿勢は好ましくありません。

また、変化を求めるうえで自分のコアとなる価値観を明確にすることも忘れてはいけません。コアなき努力では、心が折れてしまうだけですから。だからこそ組織のミッションは明確に示されていなければなりません。企業ミッションを自分のものとし、日本法人の経営者として社員にも同様の使命感を意識してもらえるように私も努力しています。

愛用の逸品~データにできない、思い出の詰まった万年筆

100%ペーパーレスで仕事を遂行する平野氏愛用の品は、意外にもネーム入りの万年筆。写真は以前勤めた会社を去る際、社員全員から贈られたもの。元来筆記具が好きなうえに、折に触れて家族や友人、仕事の関係者などから万年筆やペンをプレゼントしてもらっているそう。置物ではなく常に持ち歩くことができる万年筆は贈ってくれた人々との思い出が、使うたびに蘇り特別な愛着が湧くのだ。シンプルで美しく飽きのこないデザインを好み、長く使い続けることが平野氏流。

平野拓也/Takuya Hirano
1970年北海道札幌市生まれ。アメリカ・ブリガムヤング大学卒業後、KANEMATSU USAに入社。05年にマイクロソフト(当時)に入社し、11~14年までは中東欧地域の責任者となり、25カ国を統括。14年に日本マイクロソフトに復帰し、15年7月から現職。

text:Lefthands
photography:Sadato Ishizuka
hair & makeup:RINO
from:PRESIDENT 2018.4.30