新ブランドにも関わらず、ファッション関係者の間にセンセーションを捲き起こしたシューズブランドがある。2018年春夏シーズンからスタートした「カルマンソロジー」だ。同ブランドのデザイナー金子真氏は、17年間愚直に靴と向き合い培った経験と、その過程で育んだ絶対的な自信を持って、比類なき靴づくりをめざしている。
カルマンソロジーの靴は、買ったばかりの状態ではまだ完成していない。木型作りの段階から、人が指で地面を踏みしめて歩く動作を熟慮し、持ち主が足を入れ、徐々にその人の足の形になって完成していくように計算されている。履けば履くほど、ゆっくりと自分の靴になっていくのだ。ヒールには、踵への衝撃を減らすために、特殊な低反発素材をサンドイッチし独自の三層構造を取り入れている。
優美なシルエットの理由はステッチの細やかさにある。既成靴では、これまで不可能とされていた針数で縫われており、それに耐えうる良質の皮と職人の高い技術がそれを可能にした。カルマンソロジーが最も神経を払うのが、長く大切にしてもらうためのデザインの加減だ。出しゃばらず、控えめすぎない。そこに引き込まれるような魅力がある。
人はモノを買った時に感じたトキメキを流行の変化とともに忘れ、モノはどんどん捨てられてしまう。金子氏は「カルマンソロジーで表現したいのは、この先に残るモノとコトだ」と言う。職人が靴作りの伝統を引き継ぎ、そこに経験で得た知識や技術、感覚を注ぐ。そして新たな価値あるものを生み出す。偽りのないモノ作り。語らずとも静かに存在感を放つ靴。それこそが金子氏がブランド名にした 「CALM(静寂)」と「ANTHOLOGY(詩集)」、つまり「CALMANTHOLOGY(言葉なき詩集)」なのである。
editor's comment
ディティールまでこだわり抜いて作られたカルマンソロジーの靴は、奇をてらうことなく圧倒的な存在感を放つ。ちらりとのぞくソールの美しい水色が、とどめを刺すように見る人の心を奪うことだろう。「タダモノではない」ビジネスマンを、語らずとも演じられるはずだ。
text:Kyo Kuon