パリコレで手にした理想像
パリコレには20年ほど足を運んでいますが、初期の頃、会場で見かけた米国の百貨店トップの方の、美しいスーツ姿に強い感銘を受けました。これぞ百貨店の代表としての佇まいだ、と。以来、私もビジネスの場ではシーンに応じたスーツを着用すると決めています。
実は40歳で取締役になった当時は、取引先の年上の方と交渉する機会が多く、落ち着いて見えるよう、ほとんどがモノトーンの無地でした。しかしある日、うちのバイヤーと一緒に買い物をする機会があり、「時にはストライプなどどうですか」と勧められまして。初めは躊躇したのですが、買ってみると周囲の評判がよく、今ではストライプばかり(笑)。プロの意見に耳を傾ける大切さとその効果を、身をもって実感しました。
そして社長に就いた12年前は、まさに百貨店の再編が話題になった時期。こんなときこそ、トップたる者の堂々とした振る舞いが重要だと意識して、明るめのインナー選びにこだわりました。クレリックシャツを着ることが多いのは、襟が白い分、タイを合わせやすいから。清潔感がある点も大きいですね。またタイについては、例えばブランドのオープン式典など、華やかな場では明るめの色に加え、季節感を感じられるものをセレクト。立場を鑑み、その時季や状況に最もふさわしい着こなしで表現するよう努めています。
未来を見据えるリーダーの装い
私が阪急電鉄から百貨店業界に移った直後にバブルが崩壊。その後もリーマンショックや東日本大震災と、激動の時代が続いています。最近は幸い順調とはいえ、私たちのような中規模百貨店が今後生き残っていくには、個性をより研ぎ澄まさなければなりません。来年の創業150周年に向け、まずは「松屋の強みやオリジナリティは何か」を突き詰め、社内全員で改めて共有できるよう、現在、真摯に取り組んでいる最中です。
この一大プロジェクトを成功させるためにも、これからはよりフレッシュな着こなしに努めたいですね。私は今年、還暦を迎えますが、元気のよい先輩方は顔色がいい。私もできるだけ顔映りのいい服装を心がけ、自らを高揚させていきたい。周囲だけでなく、自身のモチベーションに対して働きかけられる点も、ファッションの醍醐味であり、見逃せない魅力の一つではないでしょうか。
愛用の逸品~ルイ・ヴィトンの万年筆とシャルマンの眼鏡
秋田正紀/Masaki Akita
松屋代表取締役社長執行役員
1958年、兵庫県生まれ。東京大学経済学部卒業。83年阪急電鉄(現阪急阪神ホールディングス)入社。91年松屋入社。取締役MD統括部長等を経て2007年より現職。
text:Hirofumi Tomonaga
photograph:Hiroshi Noguchi
hair & make:Tetsuya Sawada