3Dスキャナーで自分の足が立体化!

3Dプリンターで靴の中敷き(ミッドソール)をつくるとはいっても、それは一連の作業の最終段階にあたる。その前に、自分の足の形や歩き方のクセを綿密に計測し、そのデータをもとに個々人に最適化されたミッドソールをプリントする仕組みなのだ。

まずは靴を脱ぎ、3Dスキャナーに足を乗せる。これは足の形を立体的に計測する装置で、パンツの裾をめくり、靴下のしわやたるみを伸ばした状態で計測できるのが特徴だ。裸足になる必要はなく、「普段靴を履くときと同じ状態の足型を計測します」(販売員、以下同)とのこと。

3Dスキャナーは、靴下を履いたままでも計測可能
自分の足型が、ものの見事に立体化。ぐりぐり動く

ものの15秒で計測は完了。備え付けのタブレットの画面に、足首から下の自分の足が、石膏模型のように表示される。指で画面をなぞると、くるくると立体画像の向きが変わり、しげしげと自分の足を眺めるという不思議な感覚を味わえる。足を現世に置いてきた幽霊にでもなった気分なのだ。しかし、数値は現実そのもの。足の長さや幅、土踏まずの高さ、かかとのサイズなどが数値化され、そこからベースとなる靴のサイズが割り出される。

私の場合、左足よりも右足のほうが長さで短く、かつ土踏まずのアーチの部分が高いことが分かった。「おそらく右足で地面を蹴って歩いているので、足裏のアーチが高くなってその結果右足のほうが短くなっているのでしょう」と指摘を受けた。そして、その指摘が、次のトレッドミルで裏付けられることになる。

センサー付きの靴で30秒の小走り体験

次にセンサー付きの靴に履き替え、トレッドミルで30秒ほどのウォーキング。これが時速5キロ程度なのだが、体感的には早歩き、もしくは小走りの感覚に近い。ちなみに私は何年も武術の修練に励んでいることから、左右のバランス感覚には妙な自信をもってこれに臨んだ。事実、任天堂Wiiフィットのバランスゲームで高得点をたたき出したのがひそかな自慢である。しかし、販売員の方からは「時速5キロというのは誤魔化しのきかない歩行スピードなんです。クセがはっきりとわかりますよ」と、私のひそかなプライドに挑戦するかのような一言が発せられ、マシンが動き始めた。

センサー付きの靴に履きかえ、トレッドミルで歩き方をチェック
早歩き程度のスピードだが、これが歩き方のクセを見る最適の速度だという

さて、このトレッドミルの正面には大型モニターが据えられ、歩いている時の足の動きをリアルタイムでモニタリングする。そして計測終了後は、足の傾きや足首のねじれ、歩幅や左右の重心位置、足裏のどこで体重を支えているかなど、普段まったく意識することのない“歩く”という動作を完全にデータ化してしまうのだ。

右足に頼りすぎていた自分の半生

トレッドミルの30秒が終わり、歩行データのレビューをしていると、驚きの事実が判明した。左足が妙にクネッとよじれるのも気になったのだが、それ以上に左右の体重のかけ方に異常なほどのアンバランスが見て取れる。下の画像を見ていただきたいのだが、右足の体重の移動を示す黄色いラインが、線上で推移していくのに比べ、左足の体重を示す赤いラインは、もはや線ではなく点々と続いているように見えるのがわかるだろうか。

左右の足の動き方を確認する。足首のねじれなどクセがよくわかる
体重が足の上をどのように移動したかの軌跡が、赤、黄のラインで表示される

「右足で蹴って、左足はそれを支えるような歩き方ですね」――そうなのだ。これでは左足はほとんど転ばぬための杖のようなもので、実際に歩くときの推進力をほとんど右足の蹴る力に頼っていることの証なのだ。マラソンやジョギングを長くやっている人などは、効率性が自然と身に付き、左右のバランスが取れている人が多いのだという。

我が武術、マラソンに敗れたり! そんな言葉が頭をよぎると「武道をやっていた人は、どちらかに偏ることがよくありますね。僕も剣道をやっていましたが、蹴り足の左足に偏っていましたよ」と販売員さんが教えてくれた。剣士販売員よ、気持ちはうれしいが、武術家たるもの敗北に慰めは要らないのだ。

3Dプリンターが動き始めた

3Dスキャンデータとモニターした歩き方のデータは、クラウド上に保存され、3Dプリンターに送信される。2台のプリンターがそれぞれ右足、左足用のミッドソールをシリコーン素材で積み上げていく様子を見ることができた。全体としてはハニカム状の構造で、このハニカムの大きさや高さなどを個人データに基づいて非常に細かく最適化するのが本サービスの最大の特徴だ。

3Dプリンターがシリコーン素材のミッドソールを出力していく
靴は全13色から選ぶことができる

待ち時間は約60分。ちなみに「足が大きい人だと10分くらい余計に時間がかかります」というのはご愛敬だろう。店内をぶらぶらしていれば、あっという間に時間が過ぎてしまう。靴は全13色の中から選ぶことになる。世界中のブランドに革素材を供給するECCOの靴だけあって、質感は大人が履くのに十分な上質さがある。革はなめらかな質感の「CELESTE」とクラシックな雰囲気の「OXFORD」の2種が採用されている。

さて、肝心の靴の履き心地だが、個人的な時間の都合でその場では受け取れず、後日郵送ということにしてしまった。こちらはしっかりと履きこんで、いずれレポートしたいと思う。一つ付け加えておくと、ECCOの靴は、実に柔らかい感触で、そもそも履き心地に定評がある。そこに自分専用のカスタムされたハイテクな中敷きが入るのだから、これが悪かろうはずがない。いまから手元に、いや足元に届くのが楽しみだ。

QUANT‐Uカスタマイゼーションプログラムプロジェクト ポップアップストア

会期:2019年2月20日(水)~3月26日(火)
会場:伊勢丹新宿店メンズ館B1 紳士靴売り場
空いていればいつでも受け付けているが、予約がベター。
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問い合わせ情報

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ECCO

text:Muneki Mizutani(PRESIDENT STYLE)
photograph:Wataru Mukai