職人技とデザイン性を高度なレベルで両立

前回は、男性の装いの基本にしてルーツとなる英国靴をご紹介したが、今回はその伝統を受け継ぎつつも、さらにこだわりの愛玩品として鑑賞するに足るモダンな美しさを持つイタリア靴2足にスポットを当てよう。

「美しいイタリア靴」と書いたが、ある意味、英国靴とイタリア靴ほど並べて比べてみたときに「似て非なるもの」はないだろう。そこには「質実剛健」と長く使える「用の美」をよしとするプロテスタント的なイギリス文化と、「様式美」を重んじるカトリック的な価値観、そして宮廷と結びつき装飾的な美的感覚を育んだルネサンスの母国、イタリア文化の違いが根本にあるといえば、いささか大仰に聞こえてしまうだろうか。

だが、こうした違いは何も靴に限った話ではない。クルマ好きの方なら、例えば英国のアストンマーティンとイタリアのフェラーリ、バイクなら英国のトライアンフとイタリアのドゥカティの違いに想いを馳せていただけると、何となく理解してもらえるはずだ。

もしもあなたが「一生モノとして大切にするにふさわしい品質とステイタス」に加え、大人としての粋を、伊達を、美しさを、そこに込められた職人気質と情熱を、そしてモダンな感性を求めるなら、今回ここに取り上げるイタリア靴こそはお眼鏡に適うに違いない。

名匠ボナフェ翁がつくる「履ける工芸品」

エンツォ ボナフェの「ドゥッチオ」。端正なシングルモンクストラップ・スタイルが、スーツスタイルをモダンに仕上げてくれる。Enzo Bonafe〈DUCCIO〉10万5000円(税別)

ほとんどのシューズブランドが機械を用いた底づけへと移行した現代にあって、未だにハンドソーンウェルト製法にこだわり続けるのが、イタリア・ボローニャに工房を構えるエンツォ ボナフェである。デザインの語彙は決してトラディショナルの枠からはみ出ることなく、一見したところの印象は英国靴と見紛うほどのアンダーステイテッドなものが多い。だがよくよく見れば、角度の付いたピッチドヒールやセクシーな丸みを帯びたヒールカップなどにイタリア靴らしい伊達を感じることができる。

中でもこのシングルモンクストラップシューズの「ドゥッチオ」は、日本のBEAMS Fのエクスクルーシブモデルで、一般的な紐靴よりもシャープでスマートな印象を持つ。既存ラストをベースに甲高を調整し、日本人の足へのフィット感を高めている点にも注目したい。ビスポークシューズの雰囲気を伝える端正を極めたシルエットは、いつものスーツスタイルをよりエレガントに、そしてモダンに仕上げてくれるはずだ。

2Cハンドソーン製法(グッドイヤー&マッケイ)ならではの、履くほどに足に馴染む履き心地は、一度知るとクセになる。しかも、一針一針丁寧に縫われたそのステッチのなんと精緻で美しいこと! インナーソールの手書きのサイン、鈍色に輝くバックル、総カラス仕上げのアウトソールなど、履いていない時も矯めつ眇めつ見惚れてしまう魅力がある。ただし紐靴に比べてアッパーの革の面積が広いから、常に艶やかな光沢を放つよう、よく磨いて手入れをしておくべきだ。

「ドゥッチオ」のサイドビュー。そのシルエットの美しさは、ため息が出るほど

着こなしでいえば、例えばグレーのサマーウールのスーツに合わせるようなシンプルエレガンス・スタイルでこそ、大人の風格を足元から演出してくれるだろう。バックルの2つ付いたダブルモンクストラップではいささかトゥーマッチと感じる向きにも、このシングルモンクストラップなら奇をてらうことなく上品に履きこなせるはずだ。無論、一生モノとして大切に履き続けるに如くはない、素晴らしい手づくりの名品である。伝統的な紐靴とはひと味違ったドレスシューズとして、ぜひお薦めしたい。

ステッチを見せないヒドゥンチャネル仕上げは、高級仕立て靴にのみ見られる、手間のかかるディテールのひとつ

ドライビングシューズの殿堂

「ドライビングシューズといえばトッズ」という認知を浸透させた代表作が、この「ゴンミーニ」だ。TOD'S〈GOMMINO〉DOUBLE T 7万6000円(税別)

大人がOFFの日に履くべき靴として欠かせないものに、ドライビングシューズがある。名前こそシューズだが、その実はグローブのような存在であり、薄く、軽く、足をぴったりと包み込むような履き心地はむしろ日本の足袋に近い。たいていは滑り止めのゴムがヒールの上まで回っていて、踵をフロアに付けて正確なベダルワークができるように工夫されている。重要なのは、これはあくまでもクルマを運転するための道具であり、歩き回るための靴ではないということだ。

「ゴンミーニ」のサイドビュー。デザインやカラーのバリエーションの豊かさも、人気の理由のひとつ

つまり、底が薄くクッション性も少ないドライビングシューズは、せいぜいクルマを降りてからレストランやカフェ辺りに立ち寄るくらいまでのもので、さらに足を延ばしてミュージアムを見学したり、野山を散策したりといった際には、別に歩ける靴を持参する必要があるということだ。それを面倒と見る向きもいるだろうが、TPOに合わせて服を替え、靴を替えることをむしろ積極的に楽しめるようになってこそ、心構えのうえでも大人というものではないだろうか。

「ゴンミーニ」のアウトソール。130個以上はめ込まれたラバーペブルが、確実なペダルワークを可能にしてくれる

数あるドライビングシューズの中で、その機能性に加えてデザインやカラーのバリエーションの豊富さからも殿堂的ブランドと目されているのが、イタリアのトッズの代表作「ゴンミーニ」である。粒状のゴムを全面に配したペブルソールと呼ばれるアウトソールは、しなやかな履き心地の中に優れたグリップ性能を発揮する。先述したとおり、「足用のグローブ」といった具合の薄さと軽さなので、長距離ドライブでこそラクさを実感するだろう。

イタリアンブランドらしい豊富なカラーバリエーションを持つが、今回お薦めしたいのはシックなクロコダイル型押しのカーフレザー。ブロンズ調の金具との相性もあって、上質な大人の休日スタイルを足元から演出してくれるはずだ。

問い合わせ情報

問い合わせ情報

Enzo Bonafe
BEAMS ROPPONGI HILLS
TEL:03‐5775‐1623

TOD'S
トッズ・ジャパン
TEL:0120‐102‐578

text:Shigekazu Ohno(lefthands)
photograph:Takao Ota