グレースーツのVゾーンは、ブルー系にすると冷たい表情が立ちすぎるので難しいとされる。しかし口元さんのコーディネートは淡いサックスブルーのシャツにネイビー地の柄タイが、彼の明るいキャラクターを表すようにフィットしている。グレースーツが先染めの単色ではなく、メランジ感ある梨地調の織り生地であるからカジュアルな印象が伴う。よくみるとラペルステッチがエッジの内側に入っていて、クラシックかつエレガントなイメージが備わっていた。
スーツは国内では限られた店舗でしか展開していないアルフォンソ シリカのもの。一見してナポリの手縫いのスーツだが、型紙の裁断には最新鋭のCADを導入することでクオリティを均一に保持しているサルトリアだ。口元さん自らアトリエを訪れて直接話を聞いた、思い入れあるブランドだという。生地は、触ってみるとゴリッと硬く、ヴィンテージ風の表情がある。聞けばスコットランドのカイノック社の生地だそう。
カイノックといえばホームスパンツイードなど、カントリー色の強い生地を揃えるミル(毛織物工場)のはず。なるほど、カジュアルな生地であっても、スーツに仕立てることでこんなに豊かなドレススタイルに仕上がるのか。着こむほど体に馴染んで手放せない一着となるに違いない。
text:Zeroyon Lab.
photograph:Yuko Sugimoto