東京国立博物館 平成館にて5月27日まで開催している、特別展「名作誕生―つながる日本美術」が、いま注目を集めている。国宝・重要文化財を含む、ジャンル、地域、時代を超えた選りすぐりの名作が約130件も紹介されているのだが、魅力はそれだけではない。作品や巨匠たちの「つながり」にスポットをあて、点と点をつないで線にしている展示構成がとても秀逸なのだ。名作誕生の裏にあるさまざまなドラマを知ることにより、作品の印象や見方まで変わってくるだろう。
たとえば、6件もの作品が国宝に指定されている雪舟でさえ、突然のひらめきからサラサラと水墨画を描いたわけではない。本場中国と深いつながりがあったことをこの展覧会ではわかり易く教えてくれる。雪舟が生きた室町時代は南宋時代の画家、夏珪(かけい)や玉かん(※かんの字は澗の日が月)の作品が大変人気で、彼もまたそれを模倣しながら水墨画を学んだ。画聖のイメージが強い雪舟だが、意外にも彼が本当に開花したのは50歳を前にして。最大の転機は遣明使に選ばれたことで、明の画法を積極的に取り入れながら、徐々に独自の水墨画を確立していったことがわかる。
名作をただ見るだけでは、その世界観を十分に理解するのは難しい。しかしその背景を知れば、不思議と作品に親しみが生まれ、作者の息づかいを感じるようになる。すると頭で理解しようとせずとも心が共鳴し、自然と記憶に刻まれるものなのだ。作品について「語る」のではなく「語りたくなる」時が、本物の教養になった瞬間かもしれない。それをこの展覧会が教えてくれるだろう。
editor's comment
芸術との出会いは、人との出会いと似ている。一目で引き込まれることは稀であっても、背景を知れば興味が湧く。日本美術をもっと深く知りたいと考えている人に、ぜひおすすめしたい展覧会だ。
text:Kyo Kuon