アートブックのようなカレンダーとは
2018年12月初旬に、イタリアはミラノで「ピレリ・カレンダー」2019年版のお披露目が行われた。タイヤメーカー、Pirelli(ピレリ)社が1964年から発行しているもので、カレンダーといっても、アートブックのような内容である。
カレンダーのことをあえてアートブックというのは、つねに高名な写真家を起用して、女性をモチーフにしながら凝った撮影を行うことと、紙質や製本などがまるで豪華本の体裁だからだ。
過去には、ティム・ウォーカー氏がナオミ・キャンベルやパフダディらを起用した2018年版、ピーター・リンドバーグ氏がルーニー・マーラやジェシカ・チャスティンらを撮影した2017年版、さらにアニー・リーボビッツがセレナ・ウィリアムズやエイミー・シューマーらと作り上げた2016年版などがある。
ミラノでの発表会には、2019年版を撮影した英国の写真家アルバート・ワトソン氏が出席し、加えて、モデルやタレントとして人気のジジ・ハディッドやバレエダンサーのミスティ・コープランドら“被写体”が同席したのだった。
「私が任された今回のカレンダーの主題は、DREAMINGとしました。叶えるために日々努力する価値のあるもの。そこで4人の女性たちを映画のような物語仕立てで撮影し、生活の断片を切り取るかたちで私の言わんとしているところを表現しようと思いました」
インタビューに応じてワトソン氏はそう答えてくれた。
たとえば、米の女優ジュリア・ガーナーは、成功を夢見る写真家、という設定で撮影された。自然をテーマにした写真をメインとする彼女の“旅”をワトソン氏は作り上げた。
先にふれたように物語性を重視したため、カレンダーといっても12枚とか13枚でなく、4人の女性で40枚が構成されている。登場しているのは、ジジ・ハディッド、ジュリア・ガーナー、ミスティ・コープランド、レティシア・カスタだ。
加えて、男性バレエダンサーのセルゲイ・ポルーニンとカルビン・ロイヤル三世、それにファッションデザイナーのアレクサンダー・ワンが“共演”している。
「小物や舞台装置、そして撮影じたいにも努力を傾注しました」とワトソン氏は言うだけあって、凝った仕上がりは一目でわかるほどだ。
そもそもワトソン氏の写真は、モデルやミュージシャンや俳優のポートレートにはじまり、構図や照明などを繊細にコントロールし、緻密に作りあげられていることを特徴とする。そんな写真が好きな、アルバート・ワトソンのファンはピレリ・カレンダーにけっして失望しないだろう。
カレンダーそのものもさることながら、もうひとつ、おもしろいのは、ピレリ社によるお披露目の模様である。テレビも入る記者会見で大々的な前宣伝をうったあと、夜にはブラックタイ着用のガラディナーが開かれる。
2018年にミラノ郊外の会場で開催されたディナーでは、米の女優ハル・ベリーが司会を務めた。彼女が客席をわかせたあと、ワトソン氏をはじめ、カレンダーに登場した面々が舞台に上がり、撮影の裏話などを披露してくれた。
ピレリ社はいまF1へのタイヤの供給を請け負っている。フェラーリやランボルギーニやマセラティといったスポーツカーのタイヤも製造している。メーカーとしての歴史は長く、創業は1872年にさかのぼる。
あいにくこのカレンダーは限定で刷られ、一般の書店に並ぶことはない。そこだけは残念だ。あとで本になって出版されることもあるので、それに期待しようではないか。
小川 フミオ/Fumio Ogawa
慶應義塾大学文学部卒。複数の自動車誌やグルメ誌の編集長を歴任。そのあとフリーランスとして、クルマ、グルメ、デザイン、ホテルなどライフスタイル全般を手がける。寄稿媒体は週刊誌や月刊誌などの雑誌と新聞社やライフスタイル誌のウェブサイト中心。