スポーツカーとして完成度が高いモデル
さる2018年11月の下旬、BMW(ビーエムダブリュー)の3代目になる新型「BMW Z4」に乗る機会に恵まれた。場所はポルトガル・リスボン近郊だ。3リッター6気筒搭載の「M40i」はものすごい、と形容したくなるほどスポーツカーとしての完成度の高いモデルだった。
新型Z4はべつの意味でも話題を集めてきたクルマだ。BMWがトヨタとスポーツカーを共同開発する計画を2012年に発表。その最初の結実が新型Z4と、2019年1月に正式発表と言われる「トヨタ・スープラ」だからだ。
どこまで共同開発なのか。リスボンでBMWのプロジェクトリーダーに確認したが、「2014年いらい別々に開発しているからはっきりとしたことはわからない」とつれない答えが返ってきた。
トヨタは2018年夏には偽装のまま「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」で新型スープラを走らせている。このときZ4がフルオープンであるのに対して、スープラはクーペであることがわかった。
その先は「接点がないので私たちも(スープラを見るのを)楽しみにしている」とZ4を担当したBMWのエクステリアデザイナーは語っているのだ。
なにはともあれZ4は、スポーツカーを探しているひとに、まっさきに勧めたくなる出来のよさだ。「トヨタの知見? それはないでしょう。私たちの自信作です」。さきのプロジェクトリーダーが言うだけのことはある。スタイルと走り、さらにインフォテイメントの大幅なアップデートで傑出しているのだ。
新型Z4はホイールベースが従来より26ミリ短くなって2470ミリになったいっぽう、トレッドはフロントで98ミリ拡大して1609ミリに、リアは57ミリ広がって1616ミリとなり旋回性能を向上させている。
全長は85ミリ伸びて4324ミリとなっている。ホイールベースを切り詰めたのは運動性能のためだが、全長を伸ばしたのは、歩行者との衝突安全性を高めるためだろう。昨今の自動車はこれが避けられないのだ。
スタイルは従来より面に張りが与えられ、格納式メタルトップでなく、ソフトトップが採用されたのが新しい。さらに、縦型のLEDヘッドランプに縦バーを廃してメッシュタイプとなったキドニーグリルなど、スタイル上の変更点は多い。
エアダム一体型のフロントバンパーに幅広いフロントグリルが目をひく。アグレッシブな印象はそれだけでなく、ボディ全体にわたって強く抑揚がつけられていることも、そう思わせる要因になっているのだ。着座位置は低く、乗員は後輪ちかくに座る。ここだけは古典的なポジションが守られている。
走りも大きく変わった。「ドライブの楽しさをさらに洗練させた」とBMWの開発者が胸を張るだけある、これまでのZ4のなかで最高のスポーツカーになったと感じたのである。
リスボン近郊のハイウェイや海岸線のワインディングロードで試乗したのは、シリーズ最強の3リッター直列6気筒エンジン搭載の「M40i」だ。250kW(340ps)の最高出力と500Nmの最大トルクを持ち後輪を駆動する。
走りは痛快である。爆発するような加速感だ。太いトルクが湧き上がり、しかも回転はレッドゾーンまでいっきに上がっていく。これこそエンジンメーカーを自認するBMWの面目躍如だとよくわかる。
加えてハンドリングは正確で、ステアリングホイールを切ってコーナーに入っていくときの車体のロールは少なく、いわゆるゴーカートフィーリングなのだ。小さな舵角でノーズが気持ちよく内側を向いてくれる。この感覚はすばらしい。
専用の設定のサスペンションをはじめ、バリアブルレシオのステアリングシステム、Mモデル専用のリアディファレンシャルシステムなど、手の込んだシャシーのおかげもあるのだろう。
いっぽう乗り心地が意外なほど快適なのに驚かされた。さいきんのBMWの「M」モデルは硬めの足回りを持つが、Z4ではあくまでもしなやかに動き、高速では快適だ。
M40iは電子制御ダンパーを組み込んだ専用のMサスペンションと、大径の19インリム径のホイールを履くが、おとなっぽい味付けが効いているということか。
ソフトトップなのだが、遮音性にすぐれていて、クローズドで走っているとき、風が幌を叩く音が気になることはない。いっぽうオープンにするとウィンドシールドの長さと角度が適切で、やはり風の巻き込みとは無縁だ。女性もフルオープンを楽しめるモデルである。
ポルシェ718ボクスターはミドシップなので、また違う乗り味があるとはいえ、軽快なスポーツカーという点で、Z4は真っ向から勝負を挑めるモデルだ。
リスボンで試乗して、このクルマの本当の価値がわかった。それは降りたくなくなるのだ。500キロ以上をドライブしたあとも、もっと乗っていたいと思わせる。これこそ、新型Z4がどれだけよく出来ているかの証明だ。日本上陸が待ち遠しい。
小川 フミオ/Fumio Ogawa
慶應義塾大学文学部卒。複数の自動車誌やグルメ誌の編集長を歴任。そのあとフリーランスとして、クルマ、グルメ、デザイン、ホテルなどライフスタイル全般を手がける。寄稿媒体は週刊誌や月刊誌などの雑誌と新聞社やライフスタイル誌のウェブサイト中心。