実をいうと、私自身、坐禅をするのは初めての体験。長時間足を組み、じっと静かに坐す。揺れ動こうものなら、バシンッと叩かれる。坐禅で気分がすっきりするとは聞くものの、どこか修行という言葉が持つ、つらい、苦しい、という先入観もあり、これまで体験する機会を得なかった。

即今の空間は13畳ほど。薄暗く、茶室のような雰囲気もあり、穏やかな空気が流れていた。しかし、和尚の説明を受け、25分の坐禅を2回繰り返すとわかると、「結構長いな」と不安がよぎる。「初心者の人は?」という和尚の声に、参加者の半分ほどが手を挙げた。「無理に足を組む必要はないですよ。胡坐でもかまいません」の言葉に、場がリラックスした雰囲気に。

もてなしとしてご飯を食べたり、お酒を飲んだりするお茶の楽しみを知らない人が多いという宇田川宗光さん

しかし、いざ坐禅がスタートすると、張り詰めた空気が部屋に満ちる。参加者に与えられたミッションは“呼吸”だけ。「なるべくゆっくり息を吸って吐き、呼吸を1から10まで数える」というもの。

なんだそんなこと、と思って始めたものの、これが案外難しく、10まで数えられない。最後は無理やり息を吐きだす格好になってしまい、なかなか集中力が持続しないのだ。最初の25分をしのいだところで、小休止。後半はさらに気を引き締めるため、和尚にあらためて足の組み方を教えてもらい、再度挑戦が始まった。

前半の反省を生かし、無理に呼吸を長くし過ぎないようにしてみた。これが自分にはすっとなじみ、姿勢も安定し、呼吸を数えることにだんだん集中できるようになる。すると今度は、あっという間に25分が経ってしまった。初心者ながら、いつもとは違う心の落ち着きを得たように思う。

うまく集中してしまえばアッという間に時が過ぎる。そのタイムワープの間、心がリラックスし、すっきりとした感覚が得られるようだ。このまますぐに仕事に向かいたい。そんな前向きな気分にすらなった。

本格的な茶の湯を楽しみたいという要望にも応えてくれる「即今」

さて、「即今」の運営しているのは茶道宗和流十八代家元・宇田川宗光さんだ。どうしてこのようなスペースを作ったのか、その思いを聞いてみた。

「私は茶道を教えていますが、どうも“作法を覚える習い事”としてとらえる人が多く、本来の楽しさを忘れているような気がしたのです。茶事は作法以前に、お客を招き、茶を振る舞うことで、コミュニケーションを楽しむもののはずです。坐禅も能も、まずは興味を持ったらやってみる。楽しんでみる。そんな体験ができる場所が作りたかったんですよ」と宇田川さん。

「楽しむ」ことから始められる「即今」は日本文化への入り口と言える

確かに、坐禅で和尚が「胡坐でもいい」と話していたことに通じる。要は形から入るのではなく、その意味するところを感じ、楽しんで続けることのほうが大事ということだろう。

即今では、坐禅はもちろんのこと、お酒の会や能の鑑賞会など、気軽に伝統文化に触れられる催しを企画しているという。お寺や能楽堂にわざわざ足を運ばなくても、会社の行き帰りに気軽に立ち寄れる、ありそうでなかったニュースポットといえそうだ。

問い合わせ情報

問い合わせ情報

「即今」
住所:東京都港区南青山5‐12‐4 全菓連ビル B1F
営業時間:15時~23時(L.O.22時)、日曜定休
電話:03‐6427‐7787


text:Kotaro Matsumoto
photograph:Satoshi Asakawa