いきなりオヤジギャグのような話で申し訳ないのだが、このソファに腰かけたとき、sofaの語源は、もしや座ったときの擬音なのではと思った。それほどに“そふぁ~”っとした、なんとも優しい座り心地なのである。
まず、表面の鹿革の質感にその理由がある。実にやわらかく、肌触りがいい。次に内部の構造にも理由がある。国産のイタヤカエデの骨格に、コイルバネを仕込み、自然由来のクッション材を用いている。これにより、座ったときにお尻、腰、背中をいい塩梅に押し返してくれて、そふぁ~っとするのだ。
このソファの名は「SPRING」。国産家具メーカーのワイス・ワイスが企画し、プロダクト全体のアートディレクションに人気のアートディレクター・佐藤卓さんを迎えてリリースした。そして、同社の代表取締役・佐藤岳利さんもADの佐藤さんも「この方がいなかったらつくれなかった」と声をそろえるのが、製作を統括した五反田製作所の宮本茂紀さんだ。
宮本さんの異名は、なんと椅子人間! プロダクトデザインの世界では、知らぬ者がいないという日本初の家具モデラ―にして、数々の名作を世に送りだしてきた名人なのだ。宮本さんによれば、「最近の椅子は、クッション部材がウレタン製のものばかり。もちろん便利なのだが、座り心地ということなら昔ながらのコイルバネにはおよばない」のだという。
さて、このソファには、単にプロダクトを生み出すというだけでなく、一大プロジェクトといえる物語がある。一つには、職人技術の継承だ。昔ながらの椅子づくりには、材木加工職人、スプリング職人、革職人、組み立て職人など、国内で作り続けていくことでしか継承できない技術を担う人たちがいるからだ。また、材料面では国産木材の使用による林業の活性化、さらに害獣として駆除された鹿を無駄にしないという意志も込められている。
「使い捨ての石油製品ではなく、自然由来で循環型のプロダクトをどうしてもつくりたい思いで、宮本さんに本プロジェクトを依頼しました。これからの時代は、サスティナブルなものを長く使うことがラグジュアリーだと思います。我々に共感してくださる方にぜひ使ってほしいソファなのです」と佐藤社長は力をこめる。
国産木材、自然由来のさまざまな部材、そして職人技がギュッと詰まっただけあって、お値段は240万(1人掛け)。なかなか手を出しにくいかもしれない。しかし、日本のプロダクトデザイン史に名を刻む宮本氏をはじめ、一流の職人たちの手によるものであること。また、迎賓館の椅子の修繕なども手掛ける宮本氏が「人ひとりの人生よりもずっと長持ちします」と太鼓判を押すのだから、決して高い買い物ではないだろう。今から買っておき、子や孫の世代にわたって修繕しながらアンティークに育てていくといった楽しみもある。むしろ、こうした時代に長く愛用できるものに出合うのは、幸運とさえいえるだろう。
text:Muneki Mizutani(PRESIDENT STYLE)