時速250キロの世界で、伝説が始まる
セダンからクロスオーバーまで、LEXUSブランドには一通りの車種がそろっている。なかでもRCはスポーツ・ラグジュアリーを担う車種。そしてRC Fは、さらにスポーツ走行性能にエッジを効かせた車種となる。午前中には公道でRCの2モデル、そして午後からはRC Fの3モデルをかわるがわるサーキットで走らせる走行会である。
さて、この私、走り屋マンガの傑作『頭文字D』の舞台となった群馬県の出身。そして自分でお金を貯めて最初に買ったスポーツカー(もちろん中古)で、榛名・赤城・妙義の上毛三山の峠を走り回っていた。サーキット走行と聞いて胸が高鳴らずにはいられなかった。が、しかし、いざ当日となると、初めてのサーキット走行とあって緊張度はマックス。カンファレンスの参加者は名だたるカー専門誌の記者やモータージャーナリストが中心。中には元レーサーの姿も……。その玄人然とした雰囲気に、気おされてしまった。
そこに現れたのが、「ニュースなクルマ」を連載していただいている小川フミオさんだ。「サーキット走るの、初めて? ライン取りだけちゃんとすれば大丈夫だよ~」と、いつものマイルドな笑顔で話しかけてくれた。癒し効果半端なし。一気に緊張がほぐれる。しかし、富士スピードウェイは、全長4563m、そしてコース幅が15m~25mと広いのが特徴だ。そのため車内からコースを見わたすと相当広く感じられ、素人にはコース取りといわれてもなかなかピンとこない。
そこでサーキット走行の一本目は、テストドライバーに助手席に乗ってもらい、走り方の手ほどきを受けることにした。ピットロードから本コースにでると、最初のTGRコーナーに向けてグッとアクセルを踏み込み速度を上げていく。レースでは、スタート直後のライン取りやドラマティックなオーバーテイクが見どころとなる、あのコーナーである。ここから俺の伝説が始まる、と思った矢先、「はい、ブレーキ」の声。即反応するも「もっと強く!」と指導が入る。素人感覚では、ほぼ急ブレーキと思えるほど強く踏まないと、コーナーに進入する際、十分な減速が間に合わないのだ。「初めてサーキットを走る人は、だいたいブレーキが優しすぎるんですよ。公道とは違うところです」とのこと。
その後、コカ・コーラコーナー、ダンロップコーナーなどをライン取りやブレーキのタイミングなどの指示を受けながら軽快に走行。そして最終パナソニックコーナーを抜けると、再びメインストレートに。ここで「250キロまで出しましょう」との指示。RC Fの本領発揮である。アクセルを踏み込むと、グッグッと気持ちよく加速していく。体に緊張感が走り、200キロ突破。そこでふっと体もほぐれ、メーターは250キロに届きそう。俺の伝説再始動、と思った矢先、「ブレーキ!」の指示。一気に減速し、再び第一コーナーに。80キロまで減速する。「初心者は広いサーキットでスピード感覚が鈍るんですよ。ちゃんとメーターを見てましたね。上手ですよ」とお褒めの言葉をいただいた。
その後、2本は単独走行。そして最後にプロフェッショナルの走りを体験したいとリクエストしたところ、ドライバーとして現れたのがLEXUS‐TAKUMIの一人、平田泰男さんだ。TAKUMIとは、LEXUS独自の役職で、いずれも高度な熟練技術者がさまざまな技術的課題をブランドが求める基準をクリアしているかという視点から判断し、現場を指導する。平田さんは、車両性能開発のTAKUMIとして、RC Fの走行性能の作りこみを行っている。プロのレースドライバーとも向き合ってきただけあり、走りに関してはプロ中のプロなのだ。
RC Fについてたずねると「スポーティな走りだけを追求するならなんだってできるんですよ。しかし、それがRC Fに求められる走り、となるとまた違います。今回は、ドライなコンディションで最大限の持ち味を発揮するため、駆動部分だけでなく、タイヤもドライコンディションを想定した専用のものです。細部にわたるドライブフィールをどう設定するのか、いつも頭を悩ませて考え抜いています」と平田さん。
さて、平田さんの走行に同乗したところ、プロの運転には驚いた。当たり前だが、自分とは全然違う。激しく揺られ、体がガンガン左右に振られる。カーブとカーブの間のわずかな直線も、躊躇なくスピードを上げていく。そして急ブレーキで、再び加速。まさにレースさながらの体験だった。相当、攻めた走りかと思いきや、「やっぱり隣に人が乗っていると、遠慮しちゃって攻めきれませんね」(平田・談)とのこと。
スポーツの心地よさを最高に味わう
さて、サーキット走行会の前に公道試乗したRCについても触れておきたい。ひとたびハンドルを握って走り出せば“スポーツ・ラグジュアリー”の意味するところがたちどころに理解できる車で、ぜひ多くの人に体験してほしいからだ。人馬一体とはよくいうが、まず「俺が馬?」と思うほどに車の制御が賢い。でも走っているのも車なわけで、「これ人要る?」と思うほどに“よく走ってくれる”のである。しかし、いったん車に身を委ねてしまえば、ジワリと自分と車とが一体感に包まれていく。それからはアクセルもブレーキもハンドルも完璧にドライバーと調和して車が動いてくれるのだ。特にハンドル操作のレスポンスには感動すら覚えた。そしてシートの抱擁感、ハンドルのレザーの質感といった内装も、すべてが自分=ドライバーのために準備されたもの、といった特別感を味わえる。
三国峠を駆け上がり、芦ノ湖が見えたあたりで、ふと妄想が頭をよぎった。帆に風を受けて走る小型の高級ヨット。もしそんなものがあるなら、RCに近い乗り味ではないだろうか。それほどにスムーズに、ストレスなく、リッチな気持ちにさせてくれるのである。RCに関しては、LEXUS‐TAKUMIの尾崎修一さんに話を聞いた。尾崎さんは、LEXUSブランドのすべての車種について、ユーザーエクスペリエンスを最大限満足させるため、ドアーの重さや音に始まって、内装の意匠や素材、走りの味、果てはダイヤルのクリック感と、細部に至るまでラグジュアリーブランドに相応しいかどうかを判断する、まさにクオリティの番人といえる役割。
「まず車も鉄製品ですから、鉄の美を極めた日本刀に興味が出たんです。そして刀を鑑賞しているうちに、身体性にも関心が及び、居合を学び始めました。刀も“切る”、そしてハンドルも“切る”、と表現するでしょう?」といきなりおもしろいエピソードを語り始める尾崎さん。「あるとき、刀で切るには、まず刀がまっすぐでなければいけない、と気づいたんです。ということは車のハンドルを切るとき、車が直進していることが重要だと。そこで直進性を見直すところから始めました」と言葉をつづけた。まさに匠の一言である。
LEXUSが高度な技術の集積であることは簡単に頭で理解できるが、これほどまでに人の手や感覚で積み上げられてきたものとは、思いもよらなかった。世界には名だたる高級スポーツカーのブランドがあるが、ニッポンにはLEXUSがある。読者のみなさんにもRC F、RCをぜひ、その乗り味を一度は体験してもらいたい。きっとこれまでとは違う走る喜びが自分の中に芽生える感覚を味わえるはずだ。
text:Muneki Mizutani(PRESIDENT STYLE)