フランス料理を気軽に楽しむチャンス

2010年にフランスの美食術がユネスコ世界遺産に登録されたことはご存じの方も多いだろう。それを機に、世界に名を馳せるアラン・デュカス氏を筆頭に、名だたる星つきシェフたちが発起人となって、「Tous au Restaurant」(=みんなでレストランへ!)というイベントがフランスで誕生した。

そして、日本でも、もっとフランス料理を気軽に楽しんでもらいたい――。そんな思いから2011年にスタートしたのが、「みんなでレストランへ!の日本版「フランス レストランウィーク」だ。

9回目を迎える今年のテーマは、「トレ・ボン! 日本のテロワール」。9月20日から10月6日までの期間中、全国700店舗以上の参加レストランで、和食材を生かした特別コースメニューを提供する。値段は、ランチ、ディナーともに、2500円、5000円、8000円(税・サービス込)いずかれの価格で提供。本格的なフランス料理をリーズナブルに楽しめる、またとないチャンスである。

若手実力派シェフの店で楽しめる最先端のフレンチ

深谷博輝/「銀座レカン」でフランス料理の基礎を学び、渡仏。パリの「ズ・キッチン・ギャルリー」で本場の技を習得し、帰国後に「カンテサンス」などを経て、2017年独立

参加レストランは同イベントの公式ホームページで検索できるのだが、今回、その中から特に注目の若手シェフ15人がフォーカスシェフとして選出されている。そのひとりに選ばれた深谷博輝シェフの店、東京・白金高輪にある「アルゴリズム」に行ってきた。

本格的なフランス料理店は敷居が高い。そんなイメージを持つ人も少なくないが、カウンター8席の小ぢんまりとした清潔感漂う同店には、そのような印象は微塵もない。かちっとしたリストもなく、メニューは実に今どきで、iPadで表示。しかも、料理名がなんとも不思議で、例えば、「動物性脂肪 ぺルノー 青梅」と単語が連なっているものや、「不変のアルゴリズム」など。前菜からメイン、デザートまで、どんな料理なのかまったく想像がつかず謎めいている。

「そのほうが、想像をかき立てられておもしろいと思うんです」

にこやかな笑顔で深谷シェフが言うとおり、確かに事前情報が少ない分、期待はいっそう高まる。これから体験する人のために料理の詳細は割愛するが、明石で獲れる大きな伝助穴子という和食材を使った料理をイベントの特別メニューとして提供する予定だ。

同店のコンセプトは「フレンチ方程式」。素材の状態を見極め、火入れの仕方、温度、構成、組み合わせを考え抜いた料理は、口当たりから香り、食感、味わいにいたるまで繊細で個性的 ※写真はイメージ

コンセプトは斬新だが、深谷シェフは基本に忠実。フランス料理の基礎となるソースも徹底的に学んできたという。

「だからこそ、素材の組み合わせや調理法をさまざまに構築することができる。堅苦しいイメージのあるフランス料理ですが、じつは自由度は高いんです。今まで体験したことのない味覚を楽しんでいただけたら」と深谷シェフ。

次世代を担うフォーカスシェフの店へ行けば、フランス料理の“今”を垣間見ることができるだろう。

巨匠アラン・デュカス氏が語る、日本のフランス料理店の魅力とは

アラン・デュカス/現在、パリ、モナコ、ロンドンに3つ星レストランを持ち、さらに世界9カ国で30以上のレストランを経営するクリエイターとしても活躍。日本では、銀座「ベージュ アラン・デュカス 東京」、青山「ブノワ」を指揮。今年、パレスホテル東京内に「エステール」をオープン予定 ©Pierre Monetta

「フランス レストランウィーク」の立役者であるアラン・デュカス氏は、日本のフランス料理についてどんな想いを抱いているのだろうか。イベント開催に合わせて来日した氏に、素朴な疑問をぶつけてみた。

「日本の多くのシェフがフランス料理の古典を踏まえたうえで、時代に合わせ、個人的な解釈を加えている。とても素晴らしいことです」

日本で活躍するシェフたちをそう賞したうえで、我が国で味わうフランス料理のよさを語ってくれた。

「日本のフランス料理は本国よりも健康志向です。ソースを多用せず、味わいも軽やか。そして何より、美的感覚に優れています。それは、日本人に和食由来の繊細な感覚が備わっているためでしょう。“見る”ことに重きを置いているように感じます。仕上げの盛りつけにもこだわっていて実に“カワイイ”です」

ちなみに、“カワイイ”とはフランスで言うところの「綺麗」という意味だ。

フランス料理界を牽引するデュカス氏は、その発展と継承のために心血を注いでいる。今後のフランス料理のあるべき姿についても熱を込めて話してくれた。

「今、私が提唱しているのは“ナチュラリテ”。その土地で採れた野菜や穀物を主軸にし、旬を大切にすること。魚に関しても、資源が枯渇してしまいそうな高級魚でなく、永続できる漁法で獲った一般的な海産物を使うこと。料理を作るうえで、健康や環境にいい、持続可能なことを大切にしなければならない。そういうことを発信してみなさんに影響を与えていくことが、料理人である私の、そしてフランス料理の使命です。たとえ高級料理の世界であっても、それが可能であることを示したい」

美食を追及しながら、自然と大地を重んじること。それは、「フランス レストランウィーク」のテーマ「トレ・ボン! 日本のテロワール」にも共通するのだろう。この機会に、日本らしいフランス料理を体験してもらいたい。

「ダイナースクラブ フランス レストランウィーク 2019」
開催中~2019年10月6日(日)
期間中、ランチ、ディナーともに、2500円、5000円、8000円(税・サービス料込)、いずれかの価格で料理を提供。用意している価格帯は店によって異なる。
参加店舗は公式サイトに掲載。
公式サイト

問い合わせ情報

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アルゴリズム
東京都港区白金6‐5‐3 さくら白金102
TEL:03‐6277‐2199

text:Yoko Yasui