コンパクトながらハイパフォーマンスを内包する1台

――川上さん自身も『テスラ』ユーザーであるということですが、今回、最新の『モデル3』を試乗してみて印象はいかがだったでしょうか?

川上昌直(以下、川上)「これまでに自分の『モデルS』と知り合いの『モデルX』を乗ったことがあるんですが、正直なところ、この2モデルに大きな違いは無かったという印象でした。ベースを共有しているだけあって、兄弟車のような位置づけですからね。ただ、今回『モデル3』を試乗してみると、これまでのモデルとはまったく違ったものだと感じましたね。実は、試乗するまでは半信半疑だったんですよ。簡素化してダメな部分はダメって言おうかと思っていましたから(笑)」

―――これまでのモデルと、どのような点が違うと感じたのでしょうか?

川上「世の中的に、『モデル3』は、これまでのモデルの廉価版・普及車として紹介されていました。しかし、実際に体験してみると、その印象はまったくありません。最先端のEV(電気自動車)として新しく生まれたモデルだと感じました。『モデルS』よりも、様々な点で成熟度が上がったモデルだと。これまでは大きなサイズでしか実現できなかった性能や機能などのパフォーマンスを、コンパクトな車体サイズで実現した『テスラ』の実力を見せつけられたというか、知る事ができたのは大きかった。このサイズで充分『テスラ』らしさをプレゼンしていて、素直に凄いなと感じました」

試乗で『モデル3』を体験する川上さん

―――『モデルS』や『モデルX』が培ったノウハウを蓄積した中で誕生した『モデル3』は、普及車として位置づけられていますが、どのような点で成熟し、進化していると思いますか?

川上「インパネ廻りやステアリングの質感、バックシートの形とか目に見える部分が進化していますね。『モデルS』だと液晶パネルが、メーターと中央に2枚あるんですが、『モデル3』ではダッシュボードに1枚。試乗する前は、乗り慣れている『モデルS』と目線が変わるので不安でしたが、まったく気にならないくらい自然で、運転が簡単だなって感じましたね。また、ボディのサイズ感も格段によくなっています。以前のモデルはサイズが大きいので、21インチ以上のホイールを履いていると駐車場で擦ったりすることもありました。あれは相当メンタルにきます。『モデル3』は、コンパクトなので少々細い道でも安心ですね。ほとんどの駐車場にもストレス無く停められて、かなりいい」

車内に操作系のスイッチやレバーは無く、液晶のタッチ式パネルでの操作になる

―――性能・機能面での進化はどうでしょうか?

川上「定期的に既存の機能を強化するソフトがアップデートされていくのが『テスラ』らしさではないでしょうか。常に最新の機能が備えられるので、基本的に買い換えなくていい。大げさに言ってしまうと、「陳腐化」がないんです。僕は『モデルS』に乗って3年ほどになるんですが、機能も性能も格段にグレードアップして、もはや購入当初とは別の車です。アップデートで加速性能まで上がりますから。とはいえ、ハードウェアが新しいほど、当然もっと高度なアップデートが施される。そして、車としての成熟度は格段に高まる。『モデル3』は、そういった意味で『テスラ』が最も理想とするモデルなんだなと。ある程度、合理的に割り切れば、『モデルS』のオーナーでも、『モデル3』への買い換えもアリなんじゃないかなって思うくらいです」

サイズ/全長4695mm×全幅1850mm×全高1445mm

『テスラ』の経営ビジョンに惚れた

―――そもそも、川上さんが『テスラ』に魅力を感じたり、興味を持ったのはなぜですか?

川上「実は『テスラ』を買ったのは、車に対してほとんど興味をなくしている時期でした。以前、地方に住んでいた時はランクルに乗っていたのですが、大阪へ越した時に売ってしまい、8年くらいは車のない生活を送っていました。その間、『もう車なんてなくても平気だな』という感じになり、すっかり車に関して無関心になってしまいました。ただ、『テスラ』という会社のビジネスモデルや、イーロン・マスクCEOのビジョンに興味があって、論文や著書に書こうと思ったのが始まりです。しかし、色々と資料を調べていると、良い話も悪い話も何だかすべて嘘っぽく感じてしまって。信用できる情報などほとんどなかったですね。当時、僕の周りには『テスラ』を所有している人もいなくて、実感も沸いてこなかったんです。経営学者としての好奇心もあり、『テスラ』のビジョンがどこまで本当なのかを検証するため「よし! ユーザーになろう」と(笑)。それで、『モデルS』を購入したんです。実際に体感してみると、様々なテクノロジーの進化と融合していて大きな衝撃を受けました。余談ですが、その最先端の技術とビジョンで「自動運転機能」の進歩を10年以上早めたのは間違い無く『テスラ』ですし。印象的には、「iPhone」が登場した時のような昂りを感じましたね」

―――『テスラ』を所有することによって同社の経営学的な側面の理解を深めた川上さんですが、『テスラ』を乗るにあたって他のユーザーにどのような事を体感してほしいでしょうか?

川上「ネットに常につながっているため、常にアップデートが施されるので、様々な機能が常に更新され、強化されていきます。「買ったときよりも、いまが一番賢い」。そんな車は他にないですよね。ぜひこの未来感を体験してほしいと思います。ユーザーを飽きさせない点が最大の特徴ですね。ただ、アフターサービスのほとんどをアップデートというかテックタッチに対応しようとするスタンスなので、通常の自動車ディーラーのようなケアを期待すると、少し肩透かしを食らうかもしれません。この点は少し注意していただきたいです。逆に、『テスラ』に慣れているユーザーや、いまのミレニアル世代のように、あまり人的なケアがないほうが合理的でいいと割り切っている方には、とてもマッチしていると思います。とりわけ、『モデル3』は『モデルS』と『モデルX』のいい部分を引き継ぎながら、過剰な機能を削ぎ落とし、日常の移動手段としての活用の幅を広げてきた印象。『モデル3』の登場で、本当に『テスラ』がやりたいことというか、方向性が見えてきましたね。世の中を本気で変えようとしている。自分も買い換えようかちょっと悩んでしまいました(笑)」

川上 昌直/Masanao Kawakami
1974年、大阪生まれの経営学者・博士(経営学)。
兵庫県立大学教授(2012年~)として母校で後進の指導にあたっている。研究成果を実業で検証し、さらにブラッシュアップするため、上場企業等で新規ビジネス立案のアドバイザーも務める。著書に『「つながり」の創りかた』(東洋経済社)など多数。『テスラ』のビジネスモデルを『マネタイズ戦略』(ダイヤモンド社)で詳細に分析している。

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text:PRESIDENT STYLE
photograph:Shinya Morimoto