給電用の蓄電池を探していたら、EVに行き着いた

国産のEV(電気自動車)といえば「日産リーフ」を思い浮かべる人も少なくないだろう。その日産自動車が新しいフラッグシップとして位置付けるのが、新型クロスオーバーEVの「日産アリア」である。

2020年7月に発表されたプロトタイプは、EV開発のパイオニア的メーカーである日産自動車の新しいフラッグシップモデルという触れ込みと、さらに近年人気上昇中のクロスオーバーということもあって話題となった。2021年6月に予約が開始され、メーカー発表によれば最初の10日間で約4000台の受注があったという。

その日産アリアの納車が、この3月にいよいよ開始された。プロトタイプの発表からおよそ1年と8カ月。コロナ禍の影響をもろに受けながらようやくデリバリーにこぎ着けたのだから、メーカーとしては「待望の」という感慨ひとしおだろう。それは予約者も同じだったようで、同日に横浜の日産グローバル本社ギャラリーで開かれた第1号車納車セレモニーに登場したオーナー夫妻は、「誰よりも早く一番に欲しいね、と話していたことが現実のものになってびっくりしています」と、喜色を浮かべた。

納車セレモニー
日産グローバル本社ギャラリーで行われた納車セレモニーでは、和紙デザイナーの佐藤友佳理さんが手掛けたアート作品の中から第1号車が登場。オーナーのご主人がプロパイロット リモート パーキングで操作した

さて、このオーナー夫妻のご主人は、じつは車を買うつもりなど毛頭なかったという。「妻からは10年以上も前から“新車を買おうよ”と言われていたのですが、もったいないからと反対していたんです」(オーナーご主人)。

もともと大手電機メーカーでテレビなどの設計を手掛けていたというご主人。新車への興味は薄かったが、その一方で大いに関心を寄せるものがあった。それが災害時などに有用な給電用の蓄電池だった。

「蓄電池をいろいろ調べているうちに、電気自動車から家に給電できることを知りました。それからしばらくして日産アリアを見る機会があったのですが、その時の印象が本当に強烈で。今まで“車なんてもったいない”と思っていた気持ちが一気に心変わりするほど魅力的だったんです。早速、妻と話をして購入を決めました」(同上)

ほとんど一目ぼれに近かったご主人は、「エクステリアの機能美や、インテリアのディスプレーが存在感を出していて好き」とデザインの良さを気に入り、奥様は「運転席と助手席がつながっていて広々としている」など車室の快適性に引かれた。「長距離のドライブが得意ではないので“プロパイロット2.0”が付いていること」も購入を後押ししたという。

車
納車セレモニーの最後にはオーナーが実際に日産アリアを初運転。「この週末は軽井沢に出かける予定」と、早速遠出を計画していた

新しいフラッグシップたる理由がある

では、日産自動車が新しいフラッグシップと位置付ける日産アリアとはどんなEVなのか。その特徴の一つが、前出の第1号車オーナーが蓄電池としても機能すると判断したバッテリー性能にある。

車
メインコンセプトは「伝統美術と先進技術の融合」。静と動、光と影、過去と未来など、対極にあるものが巧みに融合されたような印象を受ける

日産アリアのバッテリー容量は66kWhと91kWhの2種類で、66kWh2WDグレードの場合は一充電での走行可能距離が470km(WLTCモード。発売前のメーカーの社内測定によれば最大610km)となる。急速充電は130kWまでの出力に対応しており、30分の急速充電で最大375km分を充電することができる。これは同セグメントに属するEVとしては世界的に見てもトップクラスの性能と言っていい。また、新しいプラットフォームの採用により力強い加速も実現。メーカー発表によれば、今後登場予定のB9 e-4ORCEは0-100km/h加速が5.1秒(社内測定値)と、同社のスポーツカーに比するほどだという。

続いてデザイン面においては、「日本のDNAを吹き込む」というアプローチが取られた。“禅”の精神を念頭に置いて全体の調和を重んじ、その中でインテリアの随所には木工細工のような美しい幾何学模様をあしらっている。凛とした空気が漂う車室は、静粛性に優れたEVの走りとの相性も良い。

インテリア
走りの静粛性がより実感できるようなシンプルで落ち着いたインテリア。センターコンソールはシートの位置に合わせて前後にスライド可能
インテリア
日本の伝統工芸から着想を得て、インテリアのあちこちに組子模様があしらわれた

最後に忘れてはならないのが、運転支援システムである。日産自動車が誇る運転支援技術「プロパイロット2.0」のハンズオフ機能が、準天頂衛星システム(みちびき)からのGPS情報を受信することでより高精度化。大容量化されたバッテリーと合わせて、長距離ドライブの際でも不安や疲れといったストレスを低減する。また、駐車支援システムである「プロパイロット パーキング」は、車外からでも操作可能な「プロパイロット リモート パーキング」へと進化して搭載されている。

端的に述べるなら、EVで物足りなかった部分を補って余るほど改善し、EVならではのメリットをより向上させたのが日産アリアと言えるかもしれない。近場用、街乗り向きというイメージから、週末のショートトリップもこなすマルチパーパスな車へ。あるいは乗り物としてのEVから、ライフラインの一部を担う存在へ――。従来の概念を覆すような新しいEVの姿を見た思いである。

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