男性用化粧品の年間売上が1.5倍に増加
コロナ禍ですっかり普及したウェブ会議。PC画面に映る自らの顔にギョッとした人も多いのではないだろうか。表情はもとより、最も驚かされるのが肌の状態。シミやシワ、肌の色ムラ、目の下のクマ……。思っていた以上に疲れや加齢が見て取れ、どうにかしたいと化粧品カウンターに駆け込む男性が増えているらしい。
「以前から徐々に男性のお客さまは増えてきていました。ただやはりコロナの影響は大きかったと実感しています。自宅で過ごす時間が増えてセルフケアに意識が向いたことも関係していると思いますし、ウェブ会議でご自分を客観的に見て驚き、美容に関心を持つ男性も多いようです。弊社が行うアンケートや販売カウンターでも同様の声が聞かれます」
そう語るのは、SHISEIDOグループのアシスタントブランドマネージャーを務める唐川舞奈さん。最近はファッション業界や美容業界などに限らず幅広い業種や年代の男性客が増えているという。「市場全体でも男性用化粧品の売上は伸びていますが、なかでも弊社の男性向けブランド『SHISEIDO MEN』では2021年の売上が前年の1.5倍と顕著な伸びを見せています」。
もちろんそこには化粧水などのスキンケア製品も含まれるが、メイクアップ製品の伸びも大きい。肌状態を改善するのに比較的地道な積み重ねが必要なスキンケアに比べて、見た目に即効性があるのがメイクの魅力。メイクをすることで周囲にいい印象を与えられるならば、ビジネスにおいても利用しない手はない。そんなところに着目した男性が少なからずいたのかもしれない。
資生堂のヘア&メイクアップアーティストである新城輝昌さんは、メイクをしている日は「今日は顔色がいいね」などと周囲の評判が高い上に、気持ちの上でも“仕事モード”へと良い切り替えができると語る。聞けば、女性もリモートワークの際、人に会う予定がなくてもメイクをして気分を切り替えることが多いという。女もすなるメイクといふものを、男もしてみむとてするなり。ビジネスシーンで好印象を持たれるメンズメイクの基本を新城さんに聞いた。
「ビジネスにおける男性のメイクは、マイナスに感じられる箇所をいかになくしていくかが基本。それが全体の印象アップにつながります」(新城さん)。「メイクしてます」感はあくまで出さずに、自然に「清潔感があるし頼れそうな人」と周囲に思わせることがビジネスシーンでのメイクの肝となる。手順は下記の4ステップとシンプルだ。
- STEP1:肌の色ムラを整える
STEP2:気になるシミやクマを隠す
STEP3:眉毛の濃淡と毛流れを整える
STEP4:乾燥しやすい唇を保湿する
STEP1:肌の色ムラを整える
まずは肌の色ムラをなくし、均一に整える。洗顔後、化粧水や美容液で潤いを与えた肌にBBクリームをなじませていく。BBとは「Blemish Balm(ブレミッシュ・バーム)」の略。傷などを保護するための医療用の軟膏が元で、現在は肌の色ムラや薄めのシミなど気になる箇所をカバーするクリームとして広く普及している。その用途から色付きの製品が多い。ここで気を付けたいのが自分の肌の色と合った色を選ぶことだ。
「色がしっかり付いているものほど自分の肌の色ときちんと合わせないと、顔から浮いてメイク感が出てしまうので注意が必要です。色が付いていない白色のものを選ぶという手もあります。SHISEIDO MENのBBクリームは白色のクリームにカプセル状になった肌色の色剤を混ぜてあり、伸ばすと自然に肌になじむ設計になっています」
塗る際は両頬の中央部分にBBクリームを乗せ、顔の外側に向かって指でやさしく伸ばす。なお、今回使用した製品は途中で色が変わるものなので、まず頬の上でくるくるとなじませ、色が変わり始めたら全体に伸ばしていくといい。
「細かく指を使うのが面倒であれば、乳液やクリームを塗るときのように両手で顔全体になじませるだけでも大丈夫です。重要なのは、全体に溶け込むように薄くしっかりとなじませること。なじませ方が弱いと塗りムラが出てしまいます」
STEP2:気になるシミやクマを隠す
BBクリームをなじませた肌は全体が均一に整う。目立った肌の悩みがない人であればこれだけで肌づくりは終了だ。STEP2は飛ばして次の手順に進んでいい。しかし、BBクリームを塗ってもシミやクマなどが気になる場合はコンシーラーを使うといい。無理にBBクリームだけでカバーしようとすると、厚塗りになって顔全体が不自然になってしまうので避けること。
「隠す(conceal)」という名前のとおり、BBクリームやファンデーションに比べてカバー力が高いコンシーラー。初心者でも扱いやすいのは固形のペンシルタイプだ。クリーム状のものもあるが固形に比べて油分が多く、ツヤが出やすい。女性のメイクでは適度なツヤ感は歓迎されるが、男性の場合“テカリ”とみなされ清潔感なく見られがち。その点でも固形タイプがおすすめだという。
「男性からよく寄せられる悩みは、目の下のクマとヒゲの青み、毛穴、頬骨周囲のシミ。そうした箇所にピンポイントにコンシーラーを塗り、指でやさしくなじませてください。広い範囲に塗るのではなく、消しゴムのように気になる箇所のみにさっと塗って消す感じです」。
STEP3:眉毛の濃淡と毛流れを整える
STEP1、2の肌メイクと同等、もしかしたらそれ以上に大切なのが眉メイクだ。「眉は顔の印象を左右する大きなパーツ。ぜひ眉メイクにトライしてほしい」と新城さんも唐川さんも口をそろえる。とはいえ眉メイクはメイクに慣れている女性でも難しいと言われる。初心者が押さえたいポイントは2点、毛の濃淡と毛流れを整えることだ。
「まずアイブロウペンシルで眉毛の濃い場所と薄い場所の差をなくしていきます。初心者におすすめするのは、自分の眉の形に沿って眉の中央から左右に往復するように全体を描くテクニック。今回使用したSHISEIDO MENのアイブロウペンシルのように、色が付きすぎないものが失敗が少なくていいでしょう。その上で眉尻だけ薄い人ならそこだけ少し描き足して、全体の濃淡の差を調整します。それだけで顔の印象がぐっと引き締まるんです」
この方法は眉が濃い人にも有効。意外と眉と眉の間の地肌が透けてまばらに見えてしまうのだ。その隙間を埋めていくようにペンシルで軽く描けば、かなり印象が変わる。
その後、螺旋状のスクリューブラシで毛流れを整える。「毛の流れに沿ってブラシでとかします。眉毛は眉頭から中央部にかけてはやや上に、中央から眉尻に向かっては下に向かって生えているのでそれに沿うように。ただ、真下にとかしてしまうと眉全体が下がった印象になってしまうので、最後の眉尻に向けては外側に広げるようにとかすといいでしょう。全体の毛並みが整って顔の印象がよりはっきりします」。
STEP4:乾燥しやすい唇を保湿する
最後に、乾燥しがちな唇にリップクリームを塗って保湿すれば終了。ガサガサの唇では清潔感が失われてしまうので見落とさないようにしたい。男性にはツヤが出過ぎないリップクリームがおすすめだそう。女性のグロスのように艶々のリップクリームだと違和感が出てしまうからだ。
それにしてもプロの手によるものとはいえ、その仕上がりには驚かされた。肌色が均一になり眉が整うだけで清潔感や精悍さがアップし、心なしか自信に満ちあふれているようにも感じられる。それでいてまったくメイク感はなく、自然な印象を受ける。
「慣れれば全ての手順を5分で済ませられるし、気になる箇所に応じて一つのアイテムだけを使ってもまったく問題ありません。それこそウェブ会議であれば、眉をパパっと描くだけでも画面上での顔の見え方はかなり違います。さらにBBクリームを塗っているかどうかで画面での顔映りにかなり差が出ます。オンライン限定で取り入れる方も多いです」(新城さん)
まずウェブ会議で試してみるのはいいアイデア。慣れてきたらメイクをして出社すれば、「あれ、しばらくお会いしないうちに何だか調子が良さそうですね」などと印象アップにつながりそうだ。周囲からの評判もよく、自身の気持ちも変えてくれるメイク。これはビジネスの場においても有効な自己プロデュース手段になるに違いない。
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photograph:Yuki Kurihara