脱いだ直後にシューツリーを入れるのは間違い
「定期的にケアを行うことにより革が柔らかくなって足になじむため、靴ずれなどが起きにくくなります。また、スキンケアと同様に、革を保湿することで乾燥による割れを防ぐことができ、結果、美しい状態で長年履くことができます」
シューケアのメリットをそう話すのは、東京・青山の靴磨き店「ブリフトアッシュ」の上別府生さん。上別府さんは靴好きが高じて金融業界から靴磨きの世界へと転身し、現在は青山店の主任を務めるほか、企業やブランドに対してレクチャーや出張サービスを行う靴磨き職人だ。
「革靴のケアは大きく2種類に分けられます。一つが靴を脱いだら必ず行うデイリーケア、もう一つが2カ月に一度程度のスパンで行うシューケアです」
前者のデイリーケアのポイントとなるのは、「汚れを落とし湿気を逃がす」こと。革靴を脱いだら、まず馬毛のブラシでホコリや汚れを落とす。次に、型くずれを防ぐためにシューツリーを入れて保管するが、靴の内側には汗で湿気がたまっているため、履いた日は入れないほうがいい。何も入れない状態で一晩置いて湿気を逃し、翌朝にシューツリーを入れるのが正解。シューツリーは、吸湿や消臭の効果が見込める木製のものがおすすめだ。夏場で汗を多くかいた日も最低限これだけやっておけば良いという。
ただし、雨などで濡れてしまった場合は、カビに気をつける必要がある。タオルなどで革靴表面の水分を拭き、さらにアルコールを湿らせたコットンなどで靴の内側も拭く。その後、直射日光の当たらない風通しのいい場所で自然乾燥させたら完了。靴底がレザー製のものは湿気とホコリが反応してカビの原因になるため、靴底も拭いておくと良いそうだ。
2カ月、10回を目安にクリーニング&栄養補給を
上記のデイリーケアを行っていても、革靴は履き続けているうちにどうしても革の内部に汚れがたまったり、水分が抜けて乾燥したりしてしまう。そのままにすると革にひびが入ってしまうこともある。これらを防ぐために、2カ月に一度程度はやや本格的なシューケアを推奨する。上別府さん曰く「10回履いたら1度行うと良いと思います」とのことだ。
では、ここからは写真とともに具体的なケア方法を紹介しよう。
step.1 ひもを外し、内側を拭く
まずは靴ひもを外し、アルコールを湿らせたコットンなどで靴の内側を拭く。内羽根式はひもをすべて外してしまうと再度通すのが難しいので、一番下の穴は通したままで良いそうだ。外羽根式はすべて外したほうがいい。
step.2 アッパーのほこりを落とす
靴の表面に付着しているほこりを落とす。つま先とかかとの間を、ブラシをスライドさせるように動かすといい。羽根部分を左右に広げて、タン(甲部のパーツ)にたまったホコリもしっかりかき出す。ブラシは毛が柔らかい馬毛のものがベスト。
step.3 アッパーの汚れを落とす
ほこりを落としたら、次にクリーナーでアッパーの汚れを落とす。布(Tシャツの切れ端などでも可)にクリーナーを少し取って、まずは円を描くように塗っていく。すると汚れが浮いてくるため、今度は直線的に動かしてその汚れを取り除く。「円で浮かせて、直線で拭き取る」というイメージで動かすと良い。
クリーナーには固形と液体のものがあるが、液体のものは汚れの除去に時間がかかってしまったり、強い成分が入っていると革を傷めたりする可能性がある。油分が多く、扱いやすい固形のものがおすすめだ。
step.4 靴クリームで保湿&栄養補給
前のステップまでで汚れの除去は完了。ここからは栄養を与え、美しく仕上げるステップになる。まずは、保湿と革の栄養となる成分を与えるために、アッパーに靴クリームを塗り込む。クリームには乳化性と油性があるが、革に栄養が入っていきやすい乳化性がおすすめだ。
塗り方は、できれば指先に少し取って浸透させるように塗るのが良い。指の体温でクリームが溶けて浸透しやすくなることと、革のコンディションを指先で感じられるからだ。指が使いたくなければ、代わりに豚毛の靴クリームブラシを。次のブラッシング作業も一度に行えるメリットもある。
step.5 ブラッシングでクリームを浸透させる
前ステップで塗った靴クリームをより浸透させ、さらに革のつやを出すために全体をブラッシングする。ブラシは毛が硬い豚毛のものが良い。コードバンなどデリケートな革でも傷つくことはないそうだ。ブラッシングは強めに押し込むようなイメージで。靴の履きジワがある部分はそのシワに沿ってブラッシングを行うと、シワの奥までクリームがしっかり浸透する。
step.6 残った靴クリームを拭き取る
最後に、残った靴クリームを布で拭き取る。クリームの成分が残ったまま蓄積されていくと汚れになってしまうため、隅々まで丁寧に拭き取るように。
ここまで終えればシューケアは完了。あとはシューツリーを入れて保管すれば良い。最後に一つ注意したいのが、まずは黒革の靴から始めるということだ。
「ブラックもブラウンも基本的なプロセスは同じです。ただ、ブラウンは汚れ落としの際に油が染み込んでシミのようになってしまうことがあります。またブラウンは色のトーンが幅広いので、クリームの色のチョイスが難しいと思います。そのため黒革の靴で慣れてからブラウン系の靴に挑戦してみてください」
シューズやバッグなどのレザー製品はビジネススタイルの中で目につきやすく、手入れが行き届いているかどうかがひと目で分かってしまう。革の手入れと聞くと手間がかかりそうに思えるけれども、一つ一つのステップを把握すれば作業自体はそれほど難しいものではない。オン・ビジネスで清潔感をまとい、好印象を与えるためにも定期的なシューケアを始めてみてほしい。
text & edit:d・e・w
photograph:Hisai Kobayashi