世界最高への情熱が、まだなかった製品を生み出した

愛知ドビーによる鋳物ホーロー鍋「バーミキュラ」でつくった料理を食べたことがあるだろうか。

「試作品のバーミキュラでつくったカレーを食べた時の感動は今でも忘れません。鍋に食材を入れて弱火にかけ、待つこと1時間。蓋を開けると食欲をそそる香りがふわっと広がり、野菜から出た水分が美しいスープとなって、鍋中をなみなみと満たしていたのです。味見すると、驚くほどに美味しかった。にんじんが大の苦手だった私が、この時初めて『もっとにんじんを食べたい』と思ったほどでした」と土方氏は笑いながら振り返る。

土方邦裕氏。愛知ドビー株式会社代表取締役社長。1974年生まれ、大学卒業後は大手総合商社に入社。2001年に祖父が創業した愛知ドビーに三代目として入社。製品開発責任者兼副社長である弟の智晴氏、職人らとともに、世界に誇る日本の鋳物ホーロー鍋「バーミキュラ」を開発した

なぜ、バーミキュラは料理をおいしくするのか。それは、この鍋が「世界最高の鍋」をつくるという信念を、まさに体現した鍋だからだ。一番の特長は誤差0.01mm以下の精密加工技術が可能にした高い密閉性だ。この精緻を極めた加工が、食材から出る水分や香りを鍋の中に閉じ込めることで、おいしい料理が完成するのだ。

「愛知ドビーにとって『世界最高の鍋』とは『世界一おいしく料理ができること』と定義して開発を始めたのです。この鍋を使うだけで誰でも料理上手になれる。ユーザーはうれしくなりますよね。私と副社長である弟の智晴は職人たちを率いるリーダーとして、自分たちが満足する完璧な製品ができるまで販売しないと誓いました。そのため開発には3年もの月日がかかったのです」と土方氏。

製品づくりに妥協を許さない土方氏を魅了する車がある。堂々としたSUVの風格とラグジュアリーさを併せ持つ「レンジローバー」だ。

土方氏は次のようにその印象を語った。「全体に品格を感じます。サテンのような優雅な色合いが美しい。フロントマスクからテールに至るまで滑らかな流線形ですよね。ここまで滑らかな仕上げは、高い技術を必要とするのでしょう。ドアも見た目は重厚ですが、閉める時には軽やか。ハンドルを握った手に伝わる心地よい振動には喜びを覚えますね」。鍋と車の違いはあるが、職人の技を感じさせる精緻かつユーザーの五感に訴える質感には、共通性がありそうだ。

経営者として、社員に敬意と信頼を持って接してきた

「よいものづくりには、職人の技術が不可欠なんです」と続ける土方氏。愛知ドビーの職人たちと、経営者としてどのように接してきたのか。

愛知ドビーは、1936年に創業した老舗の鋳造メーカーだ。鉄を溶かして型に流し込み成型する「鋳造」と、その鋳物を削る「精密加工」を二枚看板として成長してきた。特に社名にもなっているドビー機と呼ばれる繊維機械の生産で高い評価を得ていた。工場で働く職人たちは、常に次の言葉を誇らしげに口にしていたという。「うちのドビー機は世界一!」と。

しかし、時代の変化とともに繊維産業が衰退するとドビー機の需要は激減。代わりに船舶の部品などの下請け仕事が中心になり、かつて80人いた社員はわずか15人になっていた。「なんとか家業をもう一度盛り上げたい」と経営を引き継いだ土方氏は、立て直す決意を固めた。自らは鋳造の現場に、智晴氏は精密加工の現場に入り、それぞれ職人たちと工場でともに汗を流した。現場の苦労を分かち合う中で、あることに気がついたという。

「職人たちは、もう一度、かつての誇りを感じたいと思っていたのです。彼らの士気を取り戻すことが、経営を立て直すことにもつながる。そこで『鋳造』と『精密加工』という自社の二つの強みを生かし、時代のニーズに合わせた製品を開発しようと決めたのです」と土方氏は当時を振り返る。

足掛け3年もかかった開発期間の中では、リーマンショックによる下請け注文の激減で、経営が窮地に立たされたことも。開発費がかさみ、「自社開発の製品など、一生完成しないのでは……」といった空気が現場を満たした。しかし土方氏は、苦しい状況でもかたくなに完璧を目指すことをあきらめなかった。その経営者としてのぶれない姿勢に、職人たちも根気よくついていった。苦労に苦労を、辛抱に辛抱を重ねて出来上がったのが、あの鍋だったのだ。

経営者として大きなリスクを取る判断をしてきた土方氏。その姿勢を通して、社内に何を示し続けたのか。「それは敬意です。私は職人たちの技術に対する絶対的な信頼がありました。彼らはそれに応えてくれたのだと思います。私と副社長は職人たちと一緒に汗を流し、同じ目線でものづくりを考えてきました。社長だからといって、上から物を言うばかりでは、人はついてきません」と土方氏。職人が胸に秘めるプライドは高い。経営者のフラットな意識のありようが、職人の心に火を灯し続けたに違いない。

バーミキュラの「オーブンポット 2」。新技術によって鋳物ホーロー鍋の課題であった重さを解消した
誤差0.01mm以下の精密加工技術が可能にする気密性により、食材から出る水分や香りを閉じ込め、蒸気の激しい対流が起こり、食材の水分と旨味を引き出す

経営とは「ものづくり」の先を考えること

2010年にバーミキュラが誕生してから10年以上が経ち、今や世界に120万人以上のファンをもつブランドにまで成長した。自らが考える「世界最高の鍋」を実現し、多くのユーザーから支持を得た現在でも愛知ドビーと職人たちは歩みを止めていない。

土方氏は「ものづくりを続けていると、もっとこうしたらいいんじゃないかという点が出てくるんです」と話す。そのアイデアが結実したのが、2023年に発表した「オーブンポット 2」だ。鍋の厚さを極限まで薄くすることによって、鋳物の課題であった重量の軽減と調理時間の短縮を追求した点が画期的だった。

自動車業界もまたしかり。レンジローバーも時代のニーズに合わせ進化している。プラグを差し込むだけで電気エネルギーを手軽に給電できるプラグインハイブリッドモデルが投入されたのもその一つである。

「最短距離で進むのではなく、ゆったりとドライブを楽しんでみたい」と、ハンドルを握り、感触を確かめる土方氏
電気エネルギーのみで100km以上の走行が可能。HYBRIDモードやSAVEモードであれば、エンジンの力も利用して走行と同時に充電も行える

土方氏は、環境への配慮はこれからのものづくりに欠かせないと指摘する。「資源には限りがあるというあたりまえの現実に直面しています。子どもたちが、よりよい環境で生活をしていくためには、影響力のある企業やリーダーがサステナブルな社会の実現に挑戦していくことが大切です」。

愛知ドビーでも新たな取り組みを始めたという。ユーザーが一度購入し、使い込んだ製品を引き取り、鉄に溶かして再び材料にする。それを職人の手で新たな製品につくり直す新サービスが「リクラフトプログラム」だ。そもそもバーミキュラの鋳物ホーロー鍋は一生ものの鍋ではあるが、ライフスタイルの変化によって新品に買いなおしたいユーザーもいる。その際に廃棄するのではなく、材料として循環させる。ありそうでなかったサービスを実現したところに、ユーザーと環境に寄り添う町工場の心意気と、未来を見据えた経営者の姿勢が表れている。

時代の要請に応じた製品やサービスを世に送り出す責任。妥協を許さないものづくりへの高い目標。そうした経営者としての理想を顧客や職人たちと同じ目線で追い続ける。その姿こそ新時代のリーダーなのだ。新たな価値を生み出し半世紀以上その価値を磨き上げ続け、今なおカテゴリーのリーダーであるレンジローバーのシートは、そんなフロントランナーのために用意されている。

※現在販売している製品は、撮影に使用した車両と細部で一部仕様が異なる場合がございます。

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