EVの新たな力で走行体験へ没入する。
ほとんど振動を感じさせずに山間部を走るレンジローバー。まるで宙に浮いていると錯覚するほどに、その走りは滑らかだ。アクセルとブレーキは実に軽やかで安定感があり、ハンドル操作は車体の大きさを感じさせない機敏な動きとなって表れる。ドライバーの意図を察知するかのごとく走る車体に高揚感を覚え、思わず頬がゆるんだ。
私は走行体験をさらに楽しむため、EVパワートレインで走るエコモードに切り替えた。フルサイズSUVの車体を躍動させていたエンジンの気配は息を潜め、車内はより静粛な空間となった。感覚は研ぎ澄まされ自分と車が一体となっていくかのようだ。目に映る新緑は鮮やかさを増し、手触りの良いハンドルなど、気品のあるインテリアに身を委ねる充実感が体を満たしていく。
木々が立ち並ぶ山間部をぬけ、青空に向かって丘を駆け上がると、目を見張るオブジェや土壁の建物が田畑の間に点在する景色が見えてきた。自然と農業と人の営みが共存するサステナブルファーム&パーク「クルックフィールズ」だ。“農と食、アートと自然。いのちのてざわり。”をコンセプトに、32万平米の敷地の中で、農と食とアートをテーマとした体験ができる。
山間部の自然と共存しサステナブルな循環を実現しているこの地で、レンジローバーを開発する「JLR(ジャガー・ランドローバー)」が、未来へと繋がるプレゼンテーションを行うという。持続可能な取り組みが求められる世の中で、どのような声を上げるのだろうか。
サステナブルを実現してこそのモダンラグジュアリー。
「ジャガー・ランドローバーは2039年までに排出ガス量を実質ゼロにします。そのための一歩が、今までのガソリンモデルに加え、レンジローバーファミリーに導入したPHEVモデルです」とプレゼンテーションは切り出された。2017年より進めつつあったPHEVの導入が全モデルで完了し、さらには完全電動化モデルを含めた幅広いラインナップの拡充を進めるという。
「英国で生まれ育み続けたそれぞれの車種の独自性を高めると同時に、長期的なサステナブルを実現する電動化を取り込むことで、私たちが追及するモダンラグジュアリーな走行体験が現代に合わせて再定義されるのです」と、JLRのビジョンが語られた。
「走行性能のメリットでいえば、PHEVモデルはドライバーが自由に走行モードを選ぶことができます。長距離の旅やパワフルな走破性が必要な時はガソリン、自然の中で排ガスを抑えたい時や住宅街の中でエンジン音を立てたくない時は電気、とシーンに合わせた走行が可能です」と、PHEVモデルで実現した新たな走行体験についても触れた。
オフロード性能を本分とするレンジローバーにおいては、電子制御を取り入れたことで悪路の走破性も高まっている。雪やぬかるみでリアがスリップしてしまうような場面でも、1万分の1秒単位で細かい各種制御を繰り返し、車体を力強く前進させる。
私がクルックフィールズまでの道中を楽しんだレンジローバーも、まさにPHEVモデルだ。単に静かで滑らかなEVの乗り味だけでなく、レンジローバーが心を砕いたアナログとデジタルの見事な調和を感じることができた。電子制御で実現したアクセルを踏んだ際のスムーズな加速、ハンドル操作を忠実に反映させる安定性、排ガスを抑え自然との共存に思いを馳せた時間。レンジローバーの車内で得られる感覚のひとつひとつが、ラグジュアリーな走行体験を演出している。
「レンジローバーのような大きな車は大量の燃料を必要として排ガスも出してしまいます。PHEVという選択肢があることによって、その屈強な走行性能をエコに楽しむことができるのです」
レンジローバーが突き進むサステナブルな未来に思いを馳せ、あらためてハンドルを握る。どこへでも連れて行ってくれるような走行性能がEVの技術によりさらに進化し、自然との共存にも貢献することができる。いっそう頼もしくなったレンジローバーで走るこの先の道に胸を躍らせ、私は再びそのエンジンを起動させた。
edit & text:DAIJIRO KAWANO