生活感がなかった有明で「ブリリア」が売れたわけ
「私どものブリリアでは“洗練と安心”を理念としています。特徴のひとつが、そのエリアのランドマークになるような建物をコンスタントに提供していることです」
そう話すのは、東京建物で「ブリリア」のブランド戦略を担う鹿島康弘さんである。東京建物は1960年代に住宅分譲事業を開始し、90年代にはヴェールというシリーズで5つのブランドを展開していたが、2000年代初頭に、間もなく訪れる住宅の大量供給時代を見据えてブランドの刷新を実施。03年に冒頭のコンセプトを掲げて誕生したのがブリリアである。15年には別会社だった住宅販売部門を東京建物に統合し、製販が一体化。昨年、ブランド誕生から20周年を迎えた。
鹿島さんが話す「ランドマークになるような建物」を象徴する物件はいくつかあるが、その最たるものが東京の臨海部、有明に立つタワーマンション群である。マンションの建設が決まったのが2006年頃。今でこそ街はにぎわうが、当時はまだオリンピックの話もなく、生活感のないエリアだった。
「そのような地に1000戸規模のマンションを造るわけですから、マンションそのものに価値を感じていただけるものでなければなりません。出した答えが、マンション内で生活のほとんどが完結するくらい共用施設を充実させ、しかもそれらの多くをマンションの最上階に配置するというプランでした。ホテル以上の施設といいますか、具体的にはプールやジム、スパ、バーまで盛り込んで、しかもそれらを利用する際に他にはない満足感、高揚感を感じていただこうという考えでした」
通常は高い価格を設定することが多い最上階を共用施設としたこのプランが話題となり、2008年に竣工した「ブリリア マーレ有明タワーアンドガーデン」は大きな反響を得た。東京建物はその後も有明に、同じく豊富な共用施設を備えた3棟のタワーマンションを建設。「有明といえばブリリア」と言われるほどになった。
そしてもうひとつの象徴的なケースが、目黒駅前の「ブリリアタワーズ目黒」である。有明とは対象的にJR山手線も通る都心の駅前で、オフィスビルや商業施設が立ち並ぶエリアである。
「オフィスビル1棟とそれに隣接する2棟のタワーマンションの事業でした。有明とは違って、当時すでに街は栄えていて多くの人が行き交うエリア。事業担当者が考えたのは“駅前に森をつくる”プランでした。ツインタワーの間の広大な森の広場には豊富な植栽や、敷地の勾配を利用した水の流れを設け、都市の中に潤いと品格をもたらしました。施工費や管理費を考えるとそこまでやる必要があるかという議論もあったのですが、今後数十年と地域の憩いの場になることを考えればやるべきだという判断でした」
有明、目黒の物件共に、決して奇をてらったものではなく、街になじみながらも人を引き付ける個性がある。“行ってみたい”と思わせるような、感情を動かすランドマークづくりがブリリアらしさと言えるかもしれない。
現場を見せる姿勢が信頼につながる
さらに、“洗練と安心”の安心の部分でも独自性が光る。ブリリアでは、入居者が安心して暮らせるようなさまざまな取り組みを行っている。中でも特徴的なのが、建設中のマンションの内部を実際に見ることができる建築現場見学会である。
建設途中の建物の写真やデータをまとめてマンションの契約者にレポートする取り組みは、ほぼ全てのデベロッパーが行っている。工事が順調に進んでいること、品質管理に問題がないことなどを伝え、契約者に安心してもらうことが主な目的である。
それをブリリアではさらに一歩踏み込んで、マンションの契約者を建設現場に招いて内部の様子を実際に見てもらっている。マンションのフロアごとに工事の進捗が異なるため、見学者はほぼスケルトンの状態から軽量鉄骨が入った状態、ユニットバスが入った状態など、マンションが出来上がる過程を1日で見て回ることができる。建設期間中で1日だけの実施となるが、未竣工の物件については、パンデミックなどよほどの事情がない限り原則、全物件で実施しているという。
「この見学会はかなりデリケートといいますか、建築現場でお客さまに万一のことがあってはいけませんし、たとえ現場をご覧になっても構造や材質など全てをご理解いただけるとは限りません。ただ、それをお見せする姿勢が重要だととらえています。この見学会はゼネコンさんのご協力がなければできないので、事前に綿密に打ち合わせを行って安全を徹底して。お客さまからは“ここまでやってくれることに安心した”というお声をよく頂きます」
そしてもうひとつユニークな取り組みが、防災リュックの配布である。ブリリアではマンションの引き渡し時に、全住戸に対して一定の備品を詰め合わせた防災リュックを提供している。
「これは阪神・淡路大震災を経験した社員の発案です。防災リュックや備品の必要性は感じていても、実際に準備できている方ばかりではありませんよね。それならば新しい生活が始まる段階で私たちがご提供しようと。それと並行してブリリアで防災ガイドラインを調えて、それに基づいて災害への準備や災害時の考え方、行動規範などをまとめた防災ガイドラインを作成し、各管理組合に配布しています。水害が起こりやすいかどうか、災害時の集合拠点などの情報はその物件に合わせてアレンジして。防災への意識が高いお客さまに好評ですね」
この防災ガイドラインの取り組みは、その有用性が認められてグッドデザイン賞を受賞するに至った。決して派手な施策ではないものの、建設時から引き渡し後まで“入居者の安心とは何か”を考え抜いた末の取り組みに思える。
なぜデベロッパーがアート活動に注力するのか
そんなブリリアが現在注力していることが、アート活動である。「近年はブランドの特徴を打ち出すのが難しい時代になってきた」と鹿島さんが話すように、大手デベロッパーはいずれも製販一体の体制となり、省エネの基準となるZEH-M Oriented(ゼッチ・マンション・オリエンテッド)にもおしなべて対応する。これからどうやって独自性を打ち出していくか。議論を重ねた末にたどり着いたのがアート活動だった。
「私たちはデベロッパーなので、場を提供することはそれほど難しくありません。また、アートは高級マンションとの親和性もあります。そして、ブリリアでは今、ブランドコンセプトをより具体化した“ニュー・ラグジュアリー・レジデンス“というコピーを掲げています。ニュー・ラグジュアリーというワードには、高級感や華やかさに加えて、心の豊かさを提供するという意味を込めているので、その点でもアートの要素を取り入れる意味があると考えています」
東京・八重洲にある東京建物本社の1階には、現在、アート作品を展示するギャラリースペースがある。若手を中心としたアーティストに発表の場を提供することを目的に公募展、ブリリア・アート・アワードを開催し、入賞作品はそのスペースに展示される。また、京橋にある東京建物京橋ビルにはブリリア・アート・ギャラリーを開設。ほとんどの企画展を無料で一般に開放している。
「アワードは2017年から実施しているのですが、最初は社内でも懐疑的な目が多くて。住宅と関係ない、なんでそんなことやってんの? という反応がほとんどでした。ただ、継続していると面白いもので、この2年くらいでだいぶ理解されるようになりました。あのアーティストさんの作品を住宅に取り入れたい、作家さんと何かできることはないか、というような問い合わせが増えて。また、ギャラリーにお客さまをご招待することもありますが、社会的意義の観点からも、アート活動をポジティブに捉えていただけることが多い。ギャラリーをご覧になって、よりブランドのファンになっていただくケースもあります」
有明や目黒のプランにしても、現在力を入れているアート活動にしても、ブリリアの方針は奇抜ではないものの、他にはないオリジナリティーが際立つ。「供給戸数では最大手とは言えないので、だからこそブランドの価値をどう高めていくかということは常に考えています」というように、たとえ前例がなくても、あるいは実施のハードルが高くても、入居者の心を満たすものであれば積極的に取り組もうという進取の気性が感じられる。マンションの性能や品質の進化が成熟しつつある昨今、感情へ訴えかけるようなアプローチが新鮮に映る。
photograph:Hisai Kobayashi(portrait)
edit & text:d・e・w