コンセプトは大きく、入居者を“世界一の時間へ”
「プラウドで最も大切にしている思いが“世界一の時間へ”。これは2003年のブランド誕生時から変わらないブランド・ミッションで、この他に時代ごとにもう少し具体化したブランド・ビジョンを発信しています。今でしたら“お客さまの未来を想う。”がそれです」
そう話すのは、野村不動産が展開する「プラウド」ブランドのプロモーション全般を取り仕切る岡田知之さんである。野村不動産は1963年にマンション分譲事業を開始し、ヒルズやステイツといった名称のブランドで事業を拡大。事業開始から40年を経た2003年に、それらのブランドを統合して誕生したのがプラウドである。その後はタワーマンションのプラウドタワーや、大規模なプラウドシティを加えながら着実に発展し、2023年にはブランドの誕生20周年を迎えた。
ブランド・ビジョンである「お客さまの未来を想う。」を実現するために、プラウドでは5つの価値を追求している。それが、「安心と安全」「機能性と心地良さ」「時と共に深まるデザイン」「環境と未来への対応」「豊かな暮らしへのエスコート」である。これらの価値に基づいてさまざまな施策を実施しているが、その中でもプラウドの強みと言えるものがいくつかある。
普通に考えたらタワーマンションを建てるけれど…
まずは、製・販・管一貫体制である。製造、販売、管理を同じグループ内で行う一貫体制には、より顧客のニーズに沿ったマンションが建てられるというメリットがある。販売や管理の現場で得た顧客の声を社内で共有し、製造に反映することができるからだ。
この一貫体制は昨今の大手デベロッパーでは珍しくないが、プラウドはその徹底ぶりで他と一線を画す。一般的にはマンション入居者の声を聞き、それを設備仕様や間取りなどに生かすというものだが、プラウドではさらに踏み込んで、マンションの企画段階から各部署の担当者が参加するという。
「マンションの商品企画を行う際は、用地取得や設計の担当者が中心になるのが一般的ですが、当社は販売担当も意見を述べる文化が以前よりありました。それを仕組み化したのがプロジェクトチームミーティングです。例えば新しいマンションを造る際、どんなマンションにするかという企画段階のミーティングから販売の人間も加わって議論します。お客さまの声は販売の人間が一番持っているので、こんなものがあるといい、こういうニーズが高いなど、お客さまの声を伝えることが目的です」
こうした仕組みの代表的な成果が、江東区東雲に立つ「プラウドシティ東雲キャナルマークス」である。
「2018年頃、当社で東雲にマンションを造ることが決まりました。当時、東雲は東京の湾岸エリアとして注目されていて、すでに多くのタワーマンションが立ち並んでいました。当社は後発でしたが、普通に考えたら一般的なタワーマンションを建てるのがセオリーだと思います」
企画当初はセオリー通り、タワーマンションを建てる方向でプロジェクトが進んだ。だが、議論が進むうちにある疑問が生じたという。
「タワーマンションが立ち並ぶエリアに、さらに同じようなタワーマンションを建てることが果たしてお客さまのニーズに合うのか、ものづくりとしてどうなんだろう。こういった議論が、既成概念にとらわれず本当にフラットに行われました。結果、オーバル状というユニークな形状のマンションになったのです」
2020年に竣工したプラウドシティ東雲キャナルマークスは、当初こそ「どうやって魅力を伝えたらいいか悩んだ」そうだが、ユニークな形状も相まって興味を持つ顧客が徐々に増加し、完売に至った。実際の入居者の満足度も上々だという。
将来の収入や世帯構成が不確定だからこそ
そしてプラウドのもう一つの強みが、長期的な視点で入居者のメリットを考える、という点である。その最たるものが、アトラクティブ30と呼ぶ取り組みだ。
「マンション購入時はどうしても販売価格に目が向きますが、実際に住むと管理費や修繕費が発生します。当社としては入居された後もしっかり管理、修繕を行っていただいて、かつお客さまのコストも低減したい。アトラクティブ30は、多少イニシャルコストは上がっても、最初から高耐久性の素材やより長持ちする建材を使うことで、通常12年周期の大規模修繕を16~18年周期に延ばし、結果的にトータルのコストを抑えるという仕組みです」
国土交通省の資料(令和3年「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」)によれば、大規模修繕の1戸あたりの費用は100~125万円が最も多く、半数以上は75万円以上を負担している。しかも修繕の回数を重ねるごとに費用も増す傾向がある。
竣工から48年が経過したマンションを例に上げると、一般的なマンションでは4度目の大規模修繕が必要になる時期だが、アトラクティブ30のマンションではそれが3度目となり、総修繕費に100万円ほどの差が生じるわけだ。長く住むことを想定しているならば、このメリットは小さくない。
また、修繕費などの費用面に加えて、長年住む際に考えておきたいのがリフォームである。マンションのリフォームは水回りの位置を変えられない。マンション業界に長くはびこってきたこの難題に風穴を開けたのが、プラウドのミライフルである。
「マンションには排水立て管という排水管が、上階から下階まで全階層を貫く形で通っています。これまでキッチンはその排水立て管から約3m以内に設置する必要がありました。リフォームで水回りが動かせない主な理由は、この距離制限のためです。それを最大約14mまで延伸したのがミライフルです。キッチンのレイアウトの自由度が格段に高まったことに加え、排水立て管を共用廊下に設置できるので、室内壁に無駄な凹凸ができない、メンテナンスが容易というメリットもあります」
将来的にどんな世帯構成になるのか、あるいはどんなライフスタイルを送っているのか。不確かな部分が多いからこそ、選択の幅が広いことは理想的な未来をかなえる1つの鍵となる。
未来を想うからこそEV導入も積極的
最後にこれからの取り組みについては、多くのデベロッパーと同様にサステナビリティがその柱となる。ZEH水準に沿ったエネルギー消費量の削減やCO2削減は当然のこととして、その他に特徴的なものが大きく3つある。
まずは、サステナビリティの普及活動だ。プラウドでサステナビリティをテーマとしたウェブサイトを立ち上げて情報発信を行い、他社と手を組みながらイベントを開催する。デベロッパーが企業の垣根を超えてこうした取り組みを行うことはまれである。
2つ目が、国産木材の活用である。プラウドではマンションの建設に、積極的に国産木材を使用する方針を掲げている。針葉樹は樹齢を重ねるとCO2の吸収量が減少する傾向があるため、伐採適齢期の木材を使い、新しい木を植え、森林の若返りを図ることでCO2の吸収量を高めるという取り組みだ。プラウドでは特に独立した共用棟を設置する場合には、構造部や内装に原則、国産木材を用いることとし、積極的なCO2削減に取り組んでいる。
そして最後が、EV(電気自動車)充電設備の設置である。2023年7月、野村不動産は「今後開発する分譲マンション、プラウドシリーズ全物件(※1)において、各マンションの駐車区画数のうち原則3割(※2)に駐車場のEV充電設備を導入する」と発表した。
※1 建て替え物件・再開発物件は除く
※2 駐車区画数のうちEV充電設備を原則3割程度の実装とする。一部、機械式駐車場などのタイプにより3割を満たさない物件も発生するものの、 今後充電設備設置の技術進展等を踏まえ、適用可能な物件から順次対応するものとする
「EVの普及のためには充電設備の普及が必要です。東京都は2025年から、新築マンションに駐車台数の2割以上(※機械式駐車場を除く)のEV充電設備を設置することを義務付けました。また、日本政府も乗用車においては2035年までに新車販売の全てをEVにすることを目指しています。これらを踏まえて、機械式駐車場の多い首都圏でも実現可能な設置率を鑑みて、プラウドでは3割という数値を策定しました」
侃々諤々あるEVだが、待ったなしの環境対策や日進月歩のテクノロジーを鑑みれば、長期的なスパンでは国内もEVにシフトしていくのは明らかだろう。ここにもプラウドの将来を見据えた長期的な視点がうかがえる。
さて、取材中に何度か耳にしたのがこんなフレーズだ。“目先を取るか、将来まで含めて考えるか”。修繕費を抑えられるアトラクティブ30や、リフォームの自由度が高まるミライフルは、“今”が重要な購入検討者には響きにくいかもしれないが、将来のことを含めれば非常にメリットがある取り組みだ。少しでも安く造った方が売りやすい、リフォームのことはその時に考えればいい、といったデベロッパー目線を一切捨てて、数十年先の顧客のメリットや満足度を最優先して貫くのがプラウドなのであろう。昨今掲げている“お客さまの未来を想う。”というフレーズに偽りはないようだ。
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