人にとって理想的な住環境を提供してきた

東急不動産の住宅事業は、いつの時代も自然と共に歩んできたと言っていい。

日本に最初のマンションブームが訪れた1960年代、東急不動産は中高層住宅「アルス」シリーズを拡大し、さらに都心ではなく郊外の大型ニュータウン開発を次々と手掛けた。その理由は、同社の前身である田園都市という企業の理念による。20世紀前半の東京は、急激な人口増加により住環境が著しく悪化していた。その課題を解決すべく、郊外に視野を広げて自然豊かな住環境を提供するのが田園都市の開発方針であり、その代表が田園調布だった。その後、田園調布が緑豊かな高級住宅街になったのは周知の事実である。

1953年に東急不動産として歩み始めても、この田園都市の開発方針を受け継いで自然を重視したマンション事業を進める。人々のライフスタイルに合わせていくつかのブランドを展開してきたが、2006年にブランド力の強化を図ってそれらを「ブランズ(BRANZ)」に一本化。21年には、ブランズの特色をより強く打ち出す方向へとリブランディングを実施した。

「リブランディングの際に自分たちの強みについて改めて議論したら、やはり“環境と街づくり”でした。開発を行うデベロッパーとしては、環境創造と環境配慮の両輪で取り組む必要があるという考えに至り、そこから現在の“環境先進マンション”というコンセプトを策定しました。ステークホルダーの中に未来社会も含め、『社会課題を、暮らし心地に変えていく』ということが住宅事業のスローガンになっています」

そう話すのは、現在、ブランズのブランディング全般を担当する中島有雅さんである。ブランズでは「環境先進マンション」というコンセプトの下に、「DESIGN」「QUALITY」「SUPPORT」というブランドが追求する3つの価値を掲げている。言葉自体はよく見聞きするものだが、それぞれに建物からは見えてこないブランズらしさがある。

中島有雅さん
中島有雅(なかじま・ゆうが)さん。住宅事業ユニットCX推進部、ブランド・首都圏販売統括グループのグループリーダーとして住宅事業のブランディングを担う。東急不動産に入社後、販売や計画(事業開発)を経て、2021年よりブランド業務に従事。24年から現職

マンションの植栽から、自分たちの植栽へ

まずは、DESIGNについて特徴的なのが、バイオフィリア(BIOPHILIA)という考え方だ。これは1980年代初期にアメリカの生物学者によって提唱されたもので、「人は自然とのつながりを求める本能的欲求がある」という概念である。ブランズではこの概念に基づき、建物のプランニングの初期段階から、敷地のどこに植栽を置くかということを考慮しながら設計を進める。

植栽自体は珍しいことではないが、ユニークなのは「10年後により豊かな景観になるような育成管理を目指す」という点である。マンションの植栽は、竣工時にすでに生育した樹木を植え、その大きさや形状を維持するように管理を行うのが一般的だ。だが、ブランズでは10年後を見据えて樹種や土の量を決めるという。その理由を中島さんは次のように話す。

「景観をつくるだけではなく、住民の方に参加してもらう仕組みを考えた結果です。今、マンションの課題の一つに管理不全があります。それを防ぐには、住民の方に住まいに愛着を持っていただき、管理にも主体的に関わっていただくことが必要だと考え、そのきっかけとして植栽を一緒に育てていただこうと。『GREEN AGENDA for BRANZ』と呼んでいるのですが、私たちもそこに加わって樹木の見学会やグリーンに関するセミナーの開催、アプリを利用した双方向の情報発信などを計画しています」

ブランズ自由が丘竣工当初
ブランズ自由が丘10年後イメージ
「GREEN AGENDA for BRANZ」の代表的な事例が、東京・世田谷の「ブランズ自由が丘」。上の写真が2024年の竣工当初の景観で、下がそれから10年ほど先の将来的なイメージ。樹木の背丈が伸びてボリュームを増し、マンションのシンボルツリーのようになっている

通常なら管理会社や造園業者に任せきりの植栽管理を、住民が当事者となって関わる仕組みへとデザインし、なおかつそこにデベロッパーも参加するというのは先進的な取り組みだ。多様性保全につながることも高く評価されて、「GREEN AGENDA for BRANZ」は2024年度グッドデザイン賞およびグッドデザイン・ベスト100に選ばれている。

次にQUALITYについては、代表的なものが冷凍・冷蔵宅配ボックスである。ブランズでは2022年から一部のセレクトした物件に冷凍・冷蔵宅配ボックスを採用している。驚くことに、国内の分譲マンションでは初の試みだという。

「共働き世帯の増加やふるさと納税の人気で冷凍食品へのニーズは高まっていましたが、さらにコロナ禍が拍車をかけました。一方で、再配達が増えて配送が追いつかないという社会的な課題があり、マンション側で何かサポートできないかと考えて始めた取り組みです。設置スペースや電気容量などのハードルは確かにあるのですが、環境に配慮しながら暮らしが向上するものを取り入れていこうという方針で採用を決めました」

現在は、2025年3月に販売開始となる「ブランズシティ品川ルネ キャナル」への採用が決まっている。今後竣工する物件に採用するか否かは、設置スペースのほか、共働き世帯の多寡、近隣のスーパーマーケットの有無など、いくつかの要素から総合的に判断して決めるという。

東急不動産、ブランズの販売中または販売予定の物件
東急不動産、ブランズの販売中または販売予定の物件(2024年12月時点、今後3年程度、一部抜粋)

長く住んでもらうことが一番の環境配慮

最後のSUPPORTについては、2つの取り組みが特徴的だ。まずは、ブランズのマンションを所有する全世帯へのアンケート調査である。より住みやすいマンションへ、より時代のニーズに合ったマンションへと改善するために、所有者の生の声を聞き、それをフィードバックする仕組みは、ほとんどのデベロッパーが取り入れている。だが、全世帯となると話は別で、特に供給戸数が多い大手デベロッパーでは極めてまれだ。

ブランズでは2024年度に、首都圏と関西エリア、そして札幌エリアのマンション所有者に対してアンケート調査を実施。その数は2万7594件に上った。2025年度以降も継続していくという。

中島有雅さん
中島さんは「全世帯アンケートなんて現実的には難しいのでは……」と思ったそうだが、担当部署から「やるなら徹底してやりましょう!」と言われて実行に移したそう。こうして得た所有者の声が明日のブランズにつながっていく

そしてもう一つの特徴が、建物や設備の定期的な調査についてである。ブランズのマンションはグループ会社の東急コミュニティーが管理を行う。同社の専門知識を持ったスタッフが毎年、建物の総合調査を行うことに加えて、2024年度に引き渡すマンションから、ある前例のない試みを始めるという。

「5年目と10年目の調査には、私たちデベロッパーも参加します。デベロッパーは建物を造ったらアフターサービス対応を行うのみで、あとは管理会社にお任せするのが一般的なのですが、そうではなくて造った側も責任を持って確認する必要があると考えたからです。経年変化の有無や、アフターサービスによる対応が必要な不具合がないかをデベロッパーとしても確認し、対応することが狙いです」

同じように、5年目と10年目の調査には、マンション管理組合の役員も参加できるという。

「マンションの構造や設備は一般の方には分かりにくい部分が多いのですが、専門スタッフと共に普段は意識していない部分も確認していただくことで、建物がどういう状態なのか、次はどんな検討が必要なのか、などを知っていただきます。そうすることで、所有者の皆さまにオーナーシップを持っていただきたいという思いで企画したものです」

さて、ここまでブランズの特色や、ブランズらしさをピックアップして見てきたが、驚くことに建物の設計や素材に関する話は一つもない。所有者を巻き込んで、というよりも、所有者が主体となってマンション管理を行うチームづくりを推進し、目指すのは愛着を持ちながら長年にわたって住んでもらうことだ。

環境先進とは何かを突き詰めたら、たどり着いたのは「丁寧に長く住んでもらう」という原点的な答えだったのだろう。植栽やエネルギー効率ももちろん欠かせないが、どんな取り組みであっても重要なのは、自らがマンションを良くしていこうと考える意識である。そうした意識を一段と高める仕組みづくり、そしてそのチームの中にデベロッパーが加わるという点で、マンションの在り方に新しい扉を開く可能性がある。

photograph:Hirotaka Yabushita(portrait)
edit & text:d・e・w