消費量と同量以上のエネルギーをつくる

昨今、多くのマンションデベロッパーが取り組むのが、環境配慮型のマンション「ZEH-M」の開発である。ZEH-Mは環境性能によって4つのランクに区分けされるが、その最高ランクの『ZEH-M』に適合する大規模建築物は、2025年2月時点で日本に2棟のみ。そのうちの一つ、国内で初竣工となったのが東京建物の「Brillia 深沢八丁目」である。

現在、日本では、一次エネルギー消費量の削減率が100%以上の集合住宅を、ZEH-Mを二重かぎかっこでくくった『ZEH-M』と表記している。100%以上とは、一次エネルギーの消費量を減らすと同時に、その消費量と同量以上のエネルギーをつくるということ。結果的に、一次エネルギー消費量の収支がゼロもしくはプラスになり、環境への負荷が小さくなるということだ。ちなみに、『ZEH-M』は、基準の総称であるZEH-Mと区別するために、口頭では“カギカッコ・ゼッチ・マンション”などと呼ばれることが多い。

外気の影響を受けにくく快適な室温をキープ

環境への負荷低減はもちろん喜ばしい進化だが、では『ZEH-M』は入居者にとってどんなメリットがあるのか。まずは、室内の温度が外気の影響を受けにくく、快適な温度を保つ点である。ZEH-Mのマンションの多くは、一次エネルギー消費量を抑えるために優れた断熱性を備えており、『ZEH-M』ではその水準が一段と高められている。

今回訪れたBrillia 深沢八丁目では、断熱仕様の強化や窓の高断熱化により、一部住戸で断熱性能の最高水準となる断熱等性能等級7を、全住戸で同6以上を取得している。東京建物が行なった断熱等性能等級4または5との比較シミュレーションでも、冬季の暖房使用時に室温が高く維持できる、居室の上下間や窓際と窓から離れた場所の間での温度差が小さい、さらに暖房停止から6時間経過後も温度低下が小さい、という結果が得られたという。

この高い断熱性はもちろん夏季にも有用で、外の熱気の影響を受けにくく、冷房の効率アップが期待できる。リモートワークによる自宅時間の増加、年齢とともに体にこたえる暑さ寒さ、さらに熱中症やヒートショックのリスクを思えば、室内が快適であることのメリットは大きい。

年間で10万円以上削減できる試算も

一次エネルギーの消費量を抑え、なおかつその消費量以上のエネルギーを自前の設備でつくる『ZEH-M』。一般的なマンションとの違いが端的に数字となって表れるのが光熱費である。

では一体、どの程度の減額が見込めるのか。マンションの規模や住戸の広さ、入居者の人数、暮らし方など、さまざまな要素が絡んでくるので一概には言えないが、ファミリータイプの住戸では年間10万円前後の削減が期待できる。参考までに、東京建物がBrillia 深沢八丁目の住戸で行なった試算では、省エネ基準の家(断熱等性能等級と一次エネルギー消費量等級が共に4以上の住宅)と比較して、年間で約10~16万円の削減が見込めるという。

太陽光パネル
Brillia 深沢八丁目に設置された太陽光パネルは合計336枚。共用部に24枚、各住戸に7~11枚を割り当てている

ただし、『ZEH-M』は高断熱化や発電・蓄電設備にかかるコストが建設費に上乗せされるため、販売価格が高くなることは念頭に置きたい。また、『ZEH-M』では通常、それぞれの住戸に太陽光パネルが割り当てられる。パネルの耐用期間(一般的に20~30年)中は、特別なケースを除いてメンテナンスフリーのものが多いが、パネルの更新にかかる費用は当該住戸の所有者負担になることにも触れておく。

それでもエネルギーに乏しい日本において、自前の設備で発電・蓄電できるメリットは大きいだろう。近年のエネルギー価格の高騰は、将来的な価格変動の可能性もにおわせる。長期的なスパンで安定した暮らしに向けて初期投資する、と捉えれば賢明な選択肢になり得る。

停電時にも電気の供給が受けられる

そして最後に付け加えたいのが、緊急時のライフラインとして機能する点である。『ZEH-M』では敷地内に発電・蓄電設備を備えているため、自然災害などで電力の供給がストップした場合にも、一定量の電力を使用できることが多い。

一例として、Brillia 深沢八丁目では各住戸に停電時専用のコンセントを設置し、電力会社からの供給がストップした際には、太陽光パネルやエネファームから電力の供給を行う。共用部においては、通常時にも活用できる蓄電池が設置されているほか、電気自動車からV2H(Vehicle to Home)設備を介して共用部に電力を供給することもできる。自然災害が多い日本において、この安心感は特筆に値するものだろう。

バルコニーとエネファーム
Brillia 深沢八丁目では各住戸のバルコニーにエネファームを設置(写真右奥)。停電時にも一定量の電気を使うことができる

さて、日本で『ZEH-M』に適合した大規模建築物はいまだ2棟のみ、と冒頭で述べたが、その理由は、広い土地が必要であること、低層マンションであること、建設費などのコスト面をクリアすることなど、いくつかのハードルがあるからだ。今後すぐに供給量が増えるとは考えにくい。

だが、社会全体として、環境重視の流れはこの先も大きく変わることはないだろう。『ZEH-M』の内見者の中には将来的な価値を評価する声も多いと聞く。エネルギーや資源、自然災害、そして住宅事情まで、先行きが不確かな時代だからこそ、確かな設備や性能を備えたものを選ぶということだろう。将来的な不安要素の一部を減らすリスクヘッジという側面こそ、『ZEH-M』の真価かもしれない。

photograph:Tokyo Tatemono
edit & text:d・e・w

東京建物「Brillia 深沢八丁目」

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東京建物「Brillia 深沢八丁目」