※手塚治虫の「塚」は旧字体が正式表記ですが、本記事では新字体で表記します。
小5の時に感動してからずっとファン
マンガ『火の鳥』は、手塚治虫が1954年から30年以上にわたって手掛けた長編で、最終編を描くことなくこの世を去った未完の大作である。「生命とは何か」「生きること、死ぬこととは何か」という問いをテーマとして、不死鳥“火の鳥”が生に執着する人間を翻弄しながら物語を動かす。
人類の原始的かつ哲学的なテーマもさることながら、過去と未来を交互に描いた展開、大胆でリズミカルな絵の構図、そしてユーモラスなコマ割りなどに胸を躍らせた人も多いことだろう。連載開始から70年を経た今なお、人々を魅了し続けている。
この作品にフォーカスした展覧会、『手塚治虫「火の鳥」展 -火の鳥は、エントロピー増大と抗う動的平衡=宇宙生命(コスモゾーン)の象徴-』が、2025年3月7日(金)から5月25日(日)まで、東京の六本木ヒルズ森タワー52階、東京シティビューで開催されている。
手塚治虫「火の鳥」展 -火の鳥は、エントロピー増大と抗う動的平衡=宇宙生命(コスモゾーン)の象徴-
会期:2025年3月7日(金)~5月25日(日)会場:東京シティビュー(東京都港区六本木6‐10‐1 六本木ヒルズ森タワー52階)
開館時間:10:00~22:00(最終入館21:00)
入館料:〈平日〉一般2300円、高校・大学生1700円、4歳~中学生800円、65歳以上2000円
〈土・日・休日〉一般2500円、高校・大学生1800円、4歳~中学生900円、65歳以上2200円
動的平衡と聞いてピンとくる人がいるかもしれないが、この展覧会を監修したのは生物学者の福岡伸一さん。『火の鳥』で描かれた輪廻転生の生命観や汎神論的な世界観と、福岡さんが提唱する動的平衡の生命論が重なること、さらに福岡さんは小学5年生の時に初めて『火の鳥』を読んで以来の長年のファンであることから、今回の監修が実現したという。
会場は大きく3つのチャプターで構成される。その前のプロローグとなるエントランスでは、この展覧会のために制作されたムービーやアニメーションが来場者を出迎える。フロアを埋め尽くす名シーンの数々も見ものだ。その奥では、「第1章 生命のセンス・オブ・ワンダー」と題して、各編の時代設定や展開、年表などを展示。メイン展示に向かう前に作品の概要を今一度、把握することができる。


結末のヒントは展覧会のキービジュアル
この展覧会で最も圧巻なのが、「第2章 読む!永遠の生命の物語」である。ここは、黎明編から太陽編までの主要12編にゾーン分けされており、計400点にも及ぶ手塚治虫の直筆原稿が展示されている。直筆ならではの温度感や繊細なタッチは、つい時間を忘れて見入ってしまう。
また、壁面の「福岡伸一の深読み!」と題した解説も見ものだ。博学な福岡さんの頭の中を垣間見るようで興味深い。ちなみに福岡さんが一番好きなのは鳳凰編で、「最初に読むのにもお薦め」だという。

そして展覧会のフィナーレを飾るのが、「第3章 未完を読み解く」である。
『火の鳥』の制作を通して、生とは何か、死とは何かに向き合った手塚治虫は、物語の結末を問われた際、「死ぬ時に描いてみせる」と言明したものの、作品を完成させる前にこの世を去った。手塚治虫は一体どんな結末を描こうとしたのか――。『火の鳥』をめぐる最大の謎に、福岡さんが一つの答えを与えるのが第3章のテーマである。
曰く「ヒントとなるのは、この展覧会のキービジュアルです」。
そのビジュアルとは、赤い山の上に火の鳥が描かれ、その足元に布で覆われた不思議な物体が横たわる。1971年、『火の鳥』の連載中盤に発表された6ページものの1コマである。この物体は何なのか、そして火の鳥は何を意味するのか。展覧会の最後の空間には、福岡さんが考察した結末のビジュアルが展示され、現代美術家・横尾忠則さんとの対談映像が流れる。その結末はぜひ、実際にその目で確かめてほしい。


photograph:Hisai Kobayashi
edit & text:d・e・w