行動と改革があれば、伝統はあとからついてくるもの

――若くして伝統ある企業の社長に就任し、新しいことにチャレンジするなかで、社員の賛同を得られないこともあったかと思います。いかにして、数々の改革を成功に導いてきたのですか?

まずは行動力があってこそ。9.11以前にもニューヨークのワールドトレードセンターは、1993年2月に爆破テロの被害を経験しています。ビルの最上層でその瞬間に居合わせた私は、九死に一生を得ました。それから、死を現実のものとして意識するようになりました。人生は自分の意思とは無関係に、突然終わってしまうほどに儚いものなのだから、待っていないで、必死に行動を起こすべきだと考えるようになったのです。

――創業450年を超える老舗企業のトップとして、“伝統”についてどのように考えていらっしゃいますか?

事件後、お金でお金を生む、ある種ゲーム感覚の金融ビジネスに自分が携わることに、疑問を感じるようになっていました。ですから、西川産業で実物を扱い、歴史に根ざしたビジネスをすることに大義を感じています。

「はじめに伝統を重んじるのではなく、挑戦を続けた後にできる道が伝統となるように努めなさい」と先代に言われてきました。なので、先人の教えを継承するには、革新を続けなければならないと考えています。

――西川産業では「革新を続ける」という伝統が、受け継がれているのですね。

生活様式の変遷とともに、商材を変化させてきた歴史が我が社にはあります。かつては蚊帳などを扱っておりましたが、派生して寝具を扱うようになりました。

そもそも麻生地の色そのままだった蚊帳を、草原で眠る心地よさを思わせるべく緑に染め、紅色の縁取りを施したのは、西川家2代目のアイデアです。生活機能用品にデザインを施すというのは当時では画期的でした。

2009年に発売を開始した「AiR」は、この緑の蚊帳の発想をヒントに実現しました。スポーツ用品のように機能部をビビッドなカラーで強調した製品です。寝具の機能を、色によっても認識させることで、より機能性をアピールすることがデザインの力で可能になりました。疲れた体を充電する寝具も服と同様に、見た目で満足感が得られ、体に合わせてオーダーするなど、使用することで安心感が得られるものを選ぶべきですね。

――現代社会では、寝具に何が求められているとお考えですか?

かつては睡眠時間を削って働くことが奨励される風潮がありました。「四当五落」や「惰眠を貪る」などの言葉の通り、昔から日本では睡眠をとることにネガティブなイメージが付きまとっていたのです。睡眠の重要性が科学的に証明され、睡眠時間の確保とその質を重視することが一般的になりました。単純労働を長時間行うのではなく、創造的な労働を短時間で行うことが必要とされる現代社会においては、良質な睡眠をかなえる寝具が求められています。人々の意識が変わり、睡眠市場が新たな広がりを見せはじめているのです。だから我々は、寝具メーカーから総合睡眠ソリューション業へと姿を変えようとしています。

――総合睡眠ソリューション業となるべく、どのような取り組みをされているのですか?

これまでのライセンス寝具事業主体のビジネスモデルをあらため、我が社は今、オリジナルブランド、例えばオーダーメイド寝具事業を強化しています。私自身が一流店でスーツをオーダーする体験を、オーダーメイド寝具のサービスレベル向上のための参考材料とさせていただいてもいますよ。

――何がご自身を革新へと突き動かしているのでしょうか?

私は、社会に役立つことを使命としています。銀行員時代も同様の意思を持って、公共事業のプロジェクトファイナンスに携わっていました。現在、寝具のIoT化を進めて睡眠記録から健康データを抽出し、医療との連携をいっそう図ることで、社会への貢献を目指しています。

社長のリラクゼーショングッズを拝見!
西川産業では、眠りのシーンだけではなく、生活全般のなかで“コンディショニング”の時間をつくる製品も展開している。いずれも西川社長自ら使い心地のほどを確かめているとのことだが、特にお気に入りなのが下記の2点。日常使いから出張のお供にも欠かせないそうだ。

出張のお供「エアーポータブル クッション」。長時間の移動でも腰周りの筋肉がこわばらない。
こちらの自社オリジナルのアロマオイルとルーム&リネンウォーターも愛用品。

西川八一行/Yasuyuki Nshikawa
1967年生まれ。早稲田大学法学部卒業後、住友銀行(現・三井住友銀行)に入行。赤坂支店、ニューヨーク支店などを経て、国際統括部での業務を担当。95年、西川産業に入社。2006年、38歳で社長に就任。

text:Lefthands
photography:Sadato Ishizuka
hair & makeup:RINO