社員の服装は、合理的に考える

貝印も海外展開を進め、各国に社員を派遣していますが、服装は会社が決めるのではなく、個人が判断するものと考えています。また時と場所に合わせることも肝要です。

例えば、支社を構えているアメリカ・オレゴン州では、スーツ姿のビジネスパーソンは見かけません。ですから社員もそこではカジュアルな服装で勤務しています。現地のビジネス習慣に加えて気候も服装を選ぶうえで考慮すべきでしょう。熱帯地域でネクタイにスーツはそぐいません。不合理なことは避けるべきです。

一方、ビジネスマン個人に立ち返ったとき、きちっとネクタイを締め、スーツで対面することには意味があります。「人は見た目が9割」という言葉もあります。好印象を残すには、それなりの装いをする必要があるからです。だから私は、初対面の方にお会いするときは、必ずスーツで臨むようにしています。

また、頻繁に会う人にも印象を強く残したいという考えから、メガネを毎日かえています。靴のケアには特に気をつかっていますね。初対面で、まず目がいくのは足元ですから。

私の父は、初任給で買った革靴を大事に磨いて、長く履いていたことを覚えています。私も休日に自分で靴を磨き、苦労して事業を成した父に思いを馳せています。

装いは、敬意を表すもの

今回のスーツは「ブリオーニ」のもの。同ブランドはイタリアのスーツブランドでは最高峰の一つだ

父の後を継ぎ、33歳の若さで社長に就任した当時は、社内外において目上の方々に囲まれていました。私自身が謙虚な姿勢でいることで、周囲の方々も真剣に私に向き合ってくださいました。装いも自己表現を優先するのではなく、相手を尊重して選ぶのが私のポリシーです。その際、いいものを身にまとうことは、相手への敬意を示すことにもなります。では「いいもの」とはなんでしょうか?

今日のスーツはオーダーしたものです。サイズを直しながら長く着ることができ、自分の気持ちも高揚します。私にとって「いいもの」とは、ディスプレーに建築、ファッションや流行など、あらゆるところで目にする自分の感情を動かすものです。出かけるときにはそれらをすべて内包する街の印象を心に留めて、自分の感性が鈍らないよう心がけています。その積み重ねで、自分にとっての「いいもの」を自然と判断できるようになると思います。

愛用の逸品~ともに世界を旅してきた手帳とペン

ペーパーレス化を進めているわが社ではiPadなどを使うことも多いのですが、自分でメモを取るときには、キャンパスノートに手書きです。10年来同じものを買い続け、書き尽くした30冊以上を自宅に時系列順に保管しています。エルメスの手帳も毎年買っていますね。なかには雑誌の切り抜きや家族の写真を入れています。モンブランのボールペンも社長になったときにドイツで購入し、以来私と一緒に旅をしてきました。傷や凹みも味わいとして楽しんでいます。

遠藤宏治/Koji Endo
1955年、岐阜県関市生まれ。県立岐阜高校、早稲田大学政治経済学部卒業。79年12月、米ロヨラ・メリーマウント大学大学院修了(MBA取得)。80年3月三和刃物(現貝印)に入社。86年常務、89年副社長を経て、同年9月から現職。

text:Lefthands
photography:Sadato Ishizuka
hair & makeup:RINO
from:PRESIDENT 2018.7.2