囲を意識した清い身だしなみ

「いつでもしっかりした服装を」と元社長の父から身だしなみについて注意を受けてきました。祖父が創業したこの会社に入った時点で、周囲が自分を次期社長として見ていることを感じていました。

父の言葉通り折り目正しい服装を心がけ、かしこまった場に出るときや気合を入れたいと思う日はスーツをバシッと身にまといます。方針発表や、年頭所感を述べる際には、特に気合を入れます。

実は社長就任当時、肥満に悩んでいました。食事制限をし、趣味のテニスに励むことで、3年かけて減量に成功したいま、あらゆることに自信が持てるようになりました。同時に、街を歩いていて気になった服を着てみるなど、おしゃれを楽しむようにもなりましたね。

「セビロアンドコー」で仕立てた一着。奥さまからのプレゼント「ポール・スチュアート」のネクタイが小林氏の明るいキャラクターをよく表している。

服装にも商品にも人への配慮を

痩せたからといって仕事で着る服装に大きな変化はありません。というのも、私はビジネスでの服装は「相手を慮るもの」であるべきで、自分本位のものであってはならないと考えているからです。

例えば、社内外問わず相手に敬意を表す服装を社員自ら選択してもらうため、クールビズを廃止しました。夏でもネクタイが必要な場面はありますし、冬でもノータイが好ましいシーンがあるはずです。つまり、服装については一人ひとりの裁量に任せたのです。

現在、全社的に掲げるキーワード「変える」に則って、2019年度に向けた方針発表ではスーツを着ませんでした。以前まで勝負スーツをバシッと着ていた場に、あえてジャケットにノーネクタイ、白いジーンズで臨み、変化への意志の強さを服装でも体現したのです。

変化を目指す一方で「いいものをつくる」精神は、変わらずわが社に受け継がれています。「象が踏んでもこわれない」のキャッチフレーズで一世を風靡した「アーム筆入」は、1960年代当時としては高価であったため「売れない」、また丈夫であったため「買い替え需要を減少させる」と社内から批判の声がありました。

それでも販売にこぎつけ、ヒットを記録したのは、お客さまを笑顔にする「いいもの」をつくりたいという想いがあったからこそです。商品も服装も、相手を想う気持ちが肝要ですね。

愛用の逸品~実用性重視の折りたたみ財布

「ブランドには特別なこだわりがない」という小林社長が、気に入ってずっと買い替えながら使っているのが、この折りたたみ財布。とても薄く、ジャケットの内ポケットに入れても膨らまないのがいいのだとか。見た目と実用性のバランス感覚が、小林社長のビジネススタイルを物語っている。

小林大地/Daichi Kobayashi
1967年、東京都新宿区生まれ。立教大学社会学部卒業後、IT系シンクタンクを経て94年にサンスター文具に入社。98年取締役、2003年専務取締役、06年代表取締役副社長を経て、10年より現職。

text:Lefthands
photograph:Sadato Ishiduka
hair & makeup:RINO