国内と海外でコーディネートを変えます
──経営者になる前と、経営者になってからとでは、服装に対する考え方で変化はありましたか。
弁護士として活動していたニューヨークで大きな影響を受けました。当時、ニューヨークの弁護士は皆、スーツにサスペンダーを着用して、ネクタイはヨーロッパのブランドという出で立ちでした。それを見習って私も10年ほど前まで、スーツはアメリカントラディショナルで、サスペンダーを愛用していました。
しかし、経営者に就任してからは、ジャケットを脱いだときにサスペンダースタイルではないだろう、と考えてスーツスタイルを一新しました。自分の好みと、経営トップとして好ましい印象を与えるスタイルの両面を考えて、「このくらいなら程よいだろう」というようなバランス感覚で服装を決めています。
──お客さまや仕事のパートナーと会うときの服装で気を付けていることはありますか。
大切にしているのが、誠実さや信頼感、ポジティブといった印象を与えることです。そう考えて、グレーのスーツを基調にグレーや紺のネクタイを選ぶようにしています。
一方で、海外のお客さまやパートナーと会う場合はもっとアグレッシブでもいいと考えています。たとえばヨーロッパでは現在、明るい青系のスーツが大変流行していて、ビジネスパーソンはもちろん、国を代表する政治家も、明るい青色のスーツを着ています。ですから海外に出かけるときは、明るい青系のスーツを選ぶことがあります。ただし、家内の評判はあまりよくありません。やはり日本国内では、グレーや紺のスーツにしたほうが相手の方にいい印象を与える、ということのようです。
──スーツ以外でお気に入りのアイテムを教えてください。
財布や鞄はアメリカのTUMIの同じものを使い続けています。
もう一つが、いまつけているカフリンクス(カフスボタン)です。これは娘が社会人になって最初の給料で私の誕生日に買ってくれたものです。奮発してくれたようなので、大切にしなければならないと思っています。
──プライベートでは、どのようなファッションなのですか。
綿パンにジャケットといった格好が多いですね。私はこれといった趣味がなく、プライベートで好きな洋服を選んで着るのは唯一の楽しみ、といえます。
友人とゴルフに行くこともありますが、なかなかスコアも伸びないので、「これなら会社に行ったほうがいいな」と思うこともしばしばです(笑)。
──体力、健康維持のために心がけていることはありますか。
ジムに通っています。これは体を鍛えるというよりも、体調をコントロールするのが目的です。海外の拠点を訪れるときは毎日、朝6時に宿泊しているホテルのフィットネスジムに行き、30分間ウオーキングしてから朝食をとることを習慣にしています。
訪問する機会が多いフィリピンのセブと、中国の上海、タイのバンコク、カンボジアのプノンペンにはそれぞれジョギングシューズを置いています。
多数の赤字部門を黒字化させた
──社長就任からこれまで、どんな視点でミネベアミツミの経営に取り組んできたのですか。
私が社長に就任したとき、ミネベア(旧社名)は黒字部門がほんの一部で、赤字部門が多数という状態でした。それをいかに黒字化し、成長を実現していくかが私の最初の使命でした。
当社は事業部が16~17もあり、しかもプロダクトごとにつくり方も用途も競争相手も違います。要するに、プロダクトごとに経営環境がすべて違うわけです。そうした中で一つひとつ黒字化に取り組んでいった結果、5年ほどで全部門が黒字になりました。そこまでくるのに、ものすごく大きな力を注いできたと、今振り返って思います。
──従業員の方々とのコミュニケーションで工夫していることはありますか。
社員全員が読める社内報でのメッセージ発信に力を入れています。就任してからこれまでに社内報の原稿を140、150本は書いたでしょうか。
9月初頭、北海道胆振東部地震に見舞われ、操業を停止する事態に陥った千歳工場にハンドキャリーできる量の救援物資を携えて訪問したときのことを書きました。幸いなことに、千歳工場は大きな被害を免れました。それは地震対策が万全だったからです。さらにいえば、それだけ周到な事前対策ができたのは、被災の予防に対して情熱があったからだと考えたので、そのことを強調しました。
社長が一体何を考えているのか、会社がどこへ向かい、社員たちはどうなるのか、といったことをいつも言葉にして従業員に伝えておくことは、とても重要です。それが皆に伝わらないと、なかなか会社全体の力は高まりませんから、メッセージを伝える活動には労を惜しみません。
また、言葉だけでなく、行動することも大事です。親父が子どもに背中を見せるように、上の立場に立つ者が、何をすればいいのか自分で動いて見せるということです。それがないと会社のスピードは上がりません。
情熱は力、情熱はスピード、情熱は未来
──経営トップとして大切にしていることを教えてください。
それは「情熱」です。従業員に対しても、日ごろから「情熱は力、情熱はスピード、情熱は未来」と語り、情熱の大切さを伝えるようにしています。
先ほど述べた千歳工場への訪問も、現地の従業員と気持ちを共有したいという思いが原動力です。それが「情熱は力」ということです。そして、情熱をもって動けば、被災した従業員に物資をいち早く届けることができます。これが「情熱はスピード」です。
さらに、物資を受け取った従業員が喜んでくれて、意気に感じて働いてくれれば、ミネベアミツミの未来は広がります。だから情熱は力であり、スピードであり、未来なんです。これはビジネスのあらゆる場面に当てはまることです。「情熱がすべてを決める」と考えています。
──今後の目標を教えてください。
全部門黒字化の次の段階として、それぞれの部門において黒字幅を増やしていくことを目指しています。それと同時に新製品の開発や新分野への進出に取り組むなど、未来の事業にも投資していきます。これらの取り組みを進める中で、売上高1兆円、または営業利益1000億円のどちらかを2020年までに達成することが大きな目標です。
この数値目標を従業員は自分事として捉えてくれていますから、あとは現場の指揮官が背中を見せて、情熱をもって自分のチームを引っ張っていけるかどうかにかかっていると思います。
貝沼由久/Yoshihisa Kainuma
ミネベアミツミ代表取締役会長兼社長
1956年生まれ、慶應義塾大学法学部卒業。
87年ハーバード大学ロースクール修了、日本とニューヨークで弁護士として活動した後、88年にミネベアに入社、取締役。2009年に代表取締役社長執行役員に就任。17年より現職。
text:Top Communication
photograph:Sadato Ishiduka
hair & make:RINO