――損保から介護の世界に変わって一番違うと感じるのは、どんなことでしょうか。

損保はご契約者との間に代理店が入り、直接、顧客と会うことがないケースも多々あります。介護は目の前にご利用者がいるので、要望や不満などその声を直接聞くことができます。施策を立てて実行すれば、確かな手ごたえとして返ってきます。うまくいかなければ違う策を立てて対処すればいいのです。その意味でたくさんのトライ・アンド・エラーを重ね、ご利用者の満足度を高めるサービスを提供し、ミスや事故は減らす努力をすることが大切です。

――介護業界は仕事が大変な割に給料は低いと言われ、人の採用が難しい業界です。対策はどうお考えでしょうか。

いま日本では人口が減り、現役で働く人が減り、どのビジネスも成長率が落ちてきています。介護事業はその中にあって需要は上がっているので、働く人の数とのギャップがほかの産業に比べて大きくなっています。介護職のステイタスを上げ、処遇も上げる必要があります。

人がかかわらなくても安全性が保てる範囲の仕事は効率性を考えてAIやITに任せ、人は人にしかできない部分に注力することも考えなければいけません。これは規制緩和との絡みもありますが、これからチャレンジしていきたいと思っています。

人材育成を通じて、日本の介護業界全体の質を上げていきたいと話す

――介護の品質を上げるためにどんな手を打っていますか。

「SOMPOケア ユニバーシティ」という研修センターを東京と大阪に設置しています。介護施設の現場を再現した施設です。実技と理論を同時に学べるので、社員の仕事のレベルが上がり、その結果、ご利用者の満足度が高くなると期待しています。

研修施設は、社長になって2カ月目に現場を回っていた際、社員から「ちゃんとした教育をしてください」「実技を学べる場をつくってください」という要望があったのです。就任して4カ月後に開設しました。

――研修センターができると、それまで個々人でバラバラだったスキルの底上げが実現します。

従来の介護現場では新人からベテランまで、また介護士や看護師など職種別でも教育が追い付いていませんでした。基本的にOJT任せです。しかし、みんな仕事が忙しくて十分な教育ができなかったのです。研修施設には専門の教育スタッフがいるので、充実した教育が可能になります。

介護施設を再現し実技まで学べる場は業界でもまだ珍しいでしょう。当社の社員が学ぶのはもちろんですが、ほかの介護サービスの会社にも開放し、業界全体のサービス品質を向上させたいとも考えています。

――施設も精力的に回っています。直接、ご利用者と触れ合い、エピソードもたくさんあると思います。最近、心に残ったことはありますか。

私は28年間バンドを組んでいて、1~2年に1回、コンサートも開いています。「ゾンビバンド」というバンドです。それとは別にSOMPOケアに来てから、社員とともに「THE SHIENZ(ザ・シエンズ)」という新しいバンドも結成しました。昔、プロ活動をしていたとかCDを出したことがあるとか、ゾンビバンドよりもずっとうまい社員がいるんです(笑)。

――趣味の域を超えた人たちですね。

学校を卒業してすぐに介護の世界に入ったのではなく、いろんな道を経て今の仕事に就いている人も多いですからね。人材が多様で、音楽や絵にすごい才能を持つ人もいます。

私もTHE SHIENZの一員として施設を訪問し、演奏をしました。観客は80代前後の方たちです。あるとき最前列で車いすに座って聴いてくれている方がいました。あまり反応がないので、これはつまらなかったのかな、まいったなと思っていたら、涙を流していました。やはりナマの音には人を感動させる力があるんだなとあらためて感じました。

――最後に、ストレス解消、健康づくりなどで何かやっていることはありますか。

いろんな分野の知人と会うことを心がけてきました。同じ業界で働く人の中だけで考えていると行き詰まってしまう問題でも、ほかの業界にいる人たちからすれば「それがどうしたの?」と、まったく取るに足らない問題であることも多く、自分の悩みも小さなものだなと感じられます。

健康づくりでは、犬との散歩です。10年前からラブラドールレトリバーを飼っていて、毎朝4時半に犬に起こされます。それから1時間半の散歩に連れていき、3キロ以上歩くのが日課になっています。これもストレス解消につながっていると思います。

遠藤 健/Endo Ken
SOMPOケア代表取締役社長
1954年、東京都生まれ。76年早稲田大学政治経済学部卒業後、安田火災海上保険(現損害保険ジャパン日本興亜)入社。自動車営業企画部長、専務執行役員、損保ジャパン日本興亜保険サービス社長などを経て、2015年12月より現職。

text:Top Communication
photograph:Hiroshi Noguchi
hair & make:Tetsuya Sawada