ポンパドールヘアの総支配人が目指す個性際立つホテルとは?

――洗練された客室に心地の良いサービス、美味なる時間を演出するレストラン……ゲストを存分に満足させるホスピタリティにあふれたホテルは、これまでにもあった。しかし、これから誕生する『メズム東京』は、現代的なコンセプトと多彩なオリジナリティを内包しているという。ホテル業界でも突出したアイデンティティーと個性的な風貌で異彩を放つ生沼久総支配人が目指すものとは?

生沼久総支配人(以下、生沼)「今日はよろしくお願いします! あ、これ、ポンパドールヘアって言うんです。新入社員時代から25年変わらずに続けています。リーゼントではないですから間違えないでくださいね(笑)」

――ホテルマンとは思えないほど、気さくでユニークな生沼総支配人。彼が理想とするホテルは「今までにない体験」を「東京」から世界へ発信していきたいのだという。

生沼「コンセプトは、『TOKYO WAVES』。これは常に変化している国際都市・東京のなかで、“伝統”と“革新”の波長が響き合いながら進化していくホテルを目指すということです。これまでにも伝統を意識したホテルや徹底的にラグジュアリーにこだわったホテルは、たくさんありました。けれど僕は、僕たちにしかできない現代的でオリジナリティにあふれた心の豊かさをクリエイション(創出)して、“かっこいい東京”を発信していきたいと思っています」

ポンパドールヘアの総支配人は、バイオリンが弾ける人だった!

――生沼総支配人は、『メズム東京』では、自由な発想で五感を魅了する仕掛けも色々と考えている。

生沼「こんな格好をしていますが、実は、幼少の頃からバイオリンを習っていたんですよ。学生時代には当然バンドもやりましたね。そんな自分自身の経験から音楽やアートといった芸術・カルチャーを生む場所にもしていきたいと考えています。ロビーやラウンジには『YAMAHA』の商業空間用スピーカーやパワーアンプなども導入して、BGM(バックグランドミュージック)ではなく、FGM(フォアグランドミュージック)として音楽を前面に出して流してきます。ゆくゆくは、SHOWCASEみたいな形で音楽のイベントをロビーで毎日やっていきたいですね。面白い試みとして『カシオ』の電子ピアノ『Privia』を全客室へ導入しています。普通では客室にピアノって考えられませんが、客室で過ごす1日をより豊かなものにしてほしいですから」

館内の内装デザインは細部まで本物にこだわり、ラグジュアリー感にあふれている(イメージ)
ゆったりとくつろげるスイートルーム(イメージ)

現場の自由な発想でオリジナルブランドを構築

生沼「音楽の面でもそうですが、『ジャパンクオリティ』として世界に誇れる日本企業とコラボレーションしたオリジナルブランドの構築も目指しています。例えば、スキンケアブランド『バルクオム』がプロデュースするオリジナルバスアメニティの提供が決定していますし、スペシャルティコーヒー専門店の『猿田彦珈琲』や某有名ファッションブランド、『WATERS takeshiba』内に新劇場を開業する『劇団 四季』とのコラボレーションも予定しています。また、社内にクリエイティブディレクターを置き、自分たちでホテルをブランディングしていくという点は、これまでには考えられなかった試みです。ホテルはデザインや食、ファッションなど様々な分野の集合体です。そのブランディングを外部に依頼すると、なかなか思い描いたものにはならない。僕たちの熱量が詰まったアイデアを実現できなければオリジナルブランドは成立しない。そう考えてクリエイティブディレクターを筆頭に、経験値の高いホテルマンを集めた“チーム”として、自分たちのホテルをブランディングしていくことに決めました」

「はっちゃけた」アイデアも取り入れていくスタンス

――これまでのホテルのイメージは、サービスや内装、食事、ユニフォームなど、「こうあるべき」と固定観念が付いてしまいがちな一面を持っていたが、生沼総支配人がチームとしてスタッフに伝えていることとは?

生沼「スタッフのみんなには「はっちゃけようよ」といつも伝えています。オリジナルブランドなのだから自由な発想をどんどん出し合おうと。僕はこんな性格なので、ハード面もソフト面も他のホテルとは違うことをやっていきたいと思っています。スタッフはそれぞれ素晴らしいキャリアを積んだプロフェッショナルも多いので、開発準備室に加わった当初は、ちょっとびっくりして戸惑っていたかもしれません。でも、誰しも気づかないうちに型にハマっていることってあるじゃないですか。だから、その経験を生かしながら「はっちゃけよう」、ホテルマンだけど感性を出していくクリエイターになろうと。僕の発想で困っているメンバーもいると思いますが(笑)

スタッフの個性を生かしたホテルにしていくには何が必要か

生沼「日本のサービスクオリティは世界的にみても水準は高いけれど、どれもが同じように見えてしまう。日本は、ちょっとコンサバな面があるので、なかなか自分のスタイルが確立できない土壌なんですよね。髪型や服装など、規則も多く厳しいですから。けれども海外のホテルは自由な中に自分のスタイルがあり、かっこ良さがある。だから、私は日本のホテルでももっとグローバルな視点で働く人の個性が尊重されるべきだと思っています。個人的には若い頃から髪型のことなどで先輩方からよく注意されてきましたが、お客様とは良い関係性が築けてきました。結果的に、自分のスタイルを曲げずにやってきて良かった。僕は人と同じがイヤなんです(笑)。人がやっていないオリジナリティを追求したホテルを作っていきたいと思っています。グローバルスタンダードにコミットしながらも、ジャパンクオリティを世界に発信するラグジュアリーでクール(かっこいい)なホテルが目標です。まだまだ、色々な試みを考えているので『メズム東京』に期待してください」

生沼 久/hisashi oinuma
1994年『ウェスティンホテル東京』の開業メンバーとしてキャリアをスタート。2008年には『シェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテル』宿泊部長に就任し、2016年には副総支配人に。その後、様々なホテルの開発準備室プロジェクトマネージャーや総支配人など、重要なポストを歴任。2018年、竹芝開業準備室の開設に向け、日本ホテル株式会社に入社。2019年『メズム東京』の総支配人に就任する。「マネされるのは良いけれど、マネはしたくない」が持論で、ユニークでオリジナリティあふれるホテルをクリエイションしている。

text:PRESIDENT STYLE
photograph:Hiroshi Noguchi