ライブはその一度きり。だから前日まで考え抜く
「よく、昔話をするのは良くない、と言うじゃないですか。過去を振り返るよりも未来の話をしようと。でも僕は必ずしもそうではなく、むしろ昔話に花を咲かせることも大切だと思うようになりましたね」
“時間について最近思うことは?”との問いにこう答えるのは、ロックバンド[Alexandros](アレキサンドロス)の川上洋平さんである。川上さんは大学卒業後に一度は外資系メーカーに勤務するも、会社を退職しバンド活動に専念。2010年にデビューを果たすと、若者を中心に男女問わず人気を得る。デビューから10年余りを経た今感じるのが、冒頭の“過去の大切さ”だという。
「後輩や年下の人に過去の自慢話や説教じみた話をするのは良くないかもしれないけれど、同級生やバンドメンバーと、昔はこうだったね、こういうことがあって今があるんだな、という話をするのは悪いことじゃないと思うんです。一緒に乗り越えてきたことを再認識できますし、あの時何が足りなかったのかなと顧みることは、未来にもつながる。過去は自分にとっての大事な財産。過去の話をするのはある意味、時間を大切にするということと近いのかな。時間を大事にするというと現在のことを指す場合が多いけれど、過去を大事にするのも大切なことだなと、最近改めて気づいたことです」
単に過去を振り返るだけでなく、そこから未来につなげるという姿勢が、会社員を辞めて自身でミュージシャンの道を切り開いてきた川上さんらしい。その川上さんが、最も意識的になる時間はやはりライブの時間だという。
「生で音を届けるということは一番大切にしている部分ですね。作られた通りのものを聞くなら、ウェブ経由でもCDでもいろいろあります。でもライブは一度きり、その日その時間にしか味わえない。生身の人間がやるもので、CDとは絶対に違うものです。だから僕たちはその時の感情に合わせて曲のアレンジもしますし、こうしたい、こうすべきだと思ったことはできる限りやります」
同じライブは2度とないからこそ、その時に一番いいと思うものを届ける。そうした考えは、ライブのセットリストにも及ぶという。
「ライブ前の最終のリハーサルを、なるべく前日か前々日にセッティングしてもらっています。というのは、ライブの前日にセットリストを変えたくなることがあるから。ライブの会場、フェスの雰囲気、自分のコンディション、天候などを考慮して、前日に変えることもあります。エンジニアやスタッフの方に、すみません! ってお願いしながら。いろいろなタイプがいると思いますが、僕が客だったら、アーティストがファンを失ってもいいからこれがやりたいんだという思い、新しいことに挑戦している姿に興奮してリスペクトするので、自分もそうありたいと思う。ライブ中は起きている間で、唯一時間を忘れる瞬間かもしれませんね。時間の流れの速い、遅いも感じず、気づいたら3時間経っていたということもあります」
控えめだけど自分を出している感じがいい
ライブ中はステージに時計を置かず、腕時計も着用しないのが川上さんのスタイルだ。時間を忘れ、予定時間をオーバーしてしまうのも納得というべきか。一方で、ライブ以外の時間はほとんど腕時計を着用する時計好きでもある。6年ほど前にバンドメンバーの間で“腕時計ブーム”があり、当時は知識が浅かった川上さんは時計店を訪ねてイチから教わったという。
今回、その川上さんが訪れたのが、ドイツ・グラスヒュッテを拠点に高級機械式時計を作るグラスヒュッテ・オリジナルのブティック。同ブランドは19世紀半ばに興ったドイツ時計製造の伝統を今に受け継ぐマニュファクチュール(自社一貫生産メーカー)である。そのタイムピースをいくつか眺める中で、川上さんの目に留まったのが「セネタ・クロノメーター」だ。
「かなり大きめで存在感がありますよね。僕は小さいものも持ちますが、どちらかというと自分のパートナーのように感じられるものが好きで。存在感がひと目で分かる、むしろ見なくても感じられるようなサイズのものが好きですね。この大きさがいいです」
このセネタ・クロノメーターは、20世紀初頭にグラスヒュッテ・オリジナルが自社で製作した航海用精密時計(マリンクロノメーター)から着想を得たモデル。当時の航海ではこのマリンクロノメーターと夜空に浮かぶ天体の位置から現在地を割り出していた。そのため、マリンクロノメーターには何よりも高い精度と視認性が求められた。このセネタ・クロノメーターはその高品質な時計作りの伝統を受け継いで、高い精度と信頼性を証しするドイツ・クロノメーター認証(DIN8319準拠)を取得し、さらに広い文字盤により視認性も確保した。デザイン面に目を向ければ、グレーとブルーの色合わせはファッションの観点からも気が利いている。
「すごく使いやすそうですね。普段はスーツ、ストリート、古着など、いろいろな格好をしますが、この時計は特にスーツにいいと思って。そうだな、ストライプ柄のネイビーのスーツに合わせたいですね。実はこれまでネイビーのスーツはあまり着たことがなくて、今後は着てみたいと思っていたので。袖口で半分くらい隠れていても存在感がある、控えめだけどちゃんと自分を出している感じが、自分が好きなスタイルに近いですね」
ブランドは気にしない、知名度も気にしない、複雑な機能も求めない。代わりに絶対に譲れないのは自分の好みかどうか、というのが川上さんの時計選びだ。セネタ・クロノメーターの大ぶりなサイズ感、端正で潔いダイヤルレイアウト、そしてブルーを利かせたカラーリレーションに川上さんの感性が反応したということだろう。
「高級時計はステータスを示す重要なアイテムだと思います。ステータスというのは決して自慢という意味ではなくて、相手に失礼のないもの、あるいはオケージョンにふさわしいものを身に着けるような素地があるかどうかということ。TPOをどう捉えるかは人それぞれでいいし、むしろ崩すのも1つの手だと思うんです。ただ、考えないという選択肢が僕の中にはなくて。自分が考える“ふさわしさ”というのを常に実践するようにしていますね」
自由業のイメージが強いミュージシャンという職業にして、押さえるべきところはきちんと押さえるこの真摯さもまた川上さんの人となり。その内面にぶれることのない軸を持つという点でも、セネタ・クロノメーターと通じ合う部分がありそうだ。
[ツアー情報]
NEW MEANING TOUR 2023
12/8(金)、9(土) @Zepp DiverCity
Yoohei Kawakami's #room665 at THEATER MILANO‐Za
12/24(日)、25(月) @THEATER MILANO‐Za
グラスヒュッテ・オリジナル ブティック銀座
TEL:03‐6254‐7266
photograph:Hisai Kobayashi
edit & text:d・e・w