皆に平等だからこそ使い方次第
近年、美食家たちの熱い眼差しを集めるフレンチレストランの一つが、東京・代々木上原の「été」である。完全紹介制、1日1組限定というエクスクルーシブな業態も相まって話題となり、その名を世界にまでとどろかせる。この店のオーナーシェフを務めるのが、まだ30代の若き料理人、庄司夏子さんである。
庄司さんは高校の食物調理科を卒業し、ミシュランの星付きレストランなどで経験を積んだ後、2011年に22歳の若さで独立する。資金面などの都合からパティスリーとして開業すると、彼女が作るケーキが一躍話題となり、15年には満を持してフレンチレストラン、étéを立ち上げる。1日1組限定としたのは、クオリティーの維持と食材の廃棄などを減らすための策だった。

パティスリーと同様にレストランも食通たちの間で話題となり、その後は村上隆さんなどのアーティストや人気ファッションブランドとのコラボレーションなども手掛ける。イギリスのメディアが主催する「アジアのベストレストラン50」では、20年に「ベストパティシエ賞」を、22年に「ベスト女性シェフ賞」を受賞している。
こうした輝かしいキャリアに、今年また一つ新しい経歴が加わった。「ドン ペリニヨン ソサエティ」への招聘である。
「世界トップのシェフ、ソムリエ、醸造家が、それぞれを尊重しながら刺激し合う集まりがドン ペリニヨン ソサエティです。ドン ペリニヨンの起源であるベネディクト派の修道院では、一人ひとりが尊重されながら1つのグループとして活動していました。このソサエティはそうした歴史をくむもの。趣旨はドン ペリニヨンと料理のハーモニーの探求です」

そう話すのは、ドン ペリニヨンの醸造最高責任者、ヴァンサン・シャプロン氏である。「このソサエティに加わるには大きく2つの資質が必要」と続ける。
「まずはドン ペリニヨンに対する愛。基準となるのはオーセンティシティ―(注:真正生)とハートフェルト、つまり心からの愛です。そしてもう一つが、シンギュラリティー(注:特異点)。言い換えるなら、自分にしかない個性、署名入りのクリエーションです。庄司さんはこれら両面において素晴らしい資質を持っている」
このシャプロン氏のコメントに、庄司さんが若くしてドン ペリニヨン ソサエティの仲間入りを果たした理由が見て取れる。庄司さんにはオーナーシェフとしてのぶれない軸がある。
「私が一番大事にしてきたのはオリジナリティーです。自分の店は、誰かの模倣ではなくて、自分自身でゼロから作ってきたという自負があります。料理にしても、店作りにしても、人とは違うもの、自分ならではのものという視点を常に持ち続けています。同じようにドン ペリニヨンにもオリジナリティーがある。全てのボトルに修道院のイズムが入っているのが素晴らしいと思います。今回ソサエティの一員になれて、こんなに光栄なことはありません。若い料理人、女性の料理人の希望になると思う」

そしてもう一つ、庄司さんの仕事を語る上で欠かせないのが、時間への意識の高さだ。
「時間は皆に平等に与えられる、ほとんど唯一のもの。若いスタッフに話す時はいつもダンスレッスンに例えていて、Aさんは1日8時間だけを、Bさんは24時間をダンスの習得に費やした。どっちが速く上に行けるか。もちろんBですよね。自分にとっての時間とは、24時間全てを店のこと、次世代のことに費やすものだと思っている。それが生きがいなので」
聞けば、中学生の頃から独学でワインやシャンパンの勉強を始め、レストラン勤務時代は営業終了後に遅くまで自身の勉強を行っていたという。努力をする者全てが成功するとは限らないが、成功する者は必ずと言っていいほど努力を惜しむことがない。真理はいつでもシンプルだ。
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