なぜ、時間に追われると自律神経が乱れるのか
自律神経は、血流をコントロールする役割を担っている。血流が滞れば、疲れやすさや不調、食欲の乱れなどが生じやすくなり、さらに状態が悪化すれば、深刻な疾患のリスクにもつながっていく。とりわけ30代以降のビジネスパーソンにとって重要なのは、年齢とともに働きが低下しやすい副交感神経をいかに保つかである。
「自律神経には、活動するときに働く交感神経と、リラックスするときに働く副交感神経があります。交感神経は年齢を重ねてもそれほど下がらないのですが、副交感神経は年齢とともに落ちていく。つまり健康のためには、副交感神経を上げることが大事になるのです。その基本になるのは運動、食事、睡眠。そこにもう一つ加えるとすれば、時間に余裕を持つことです」

では、自律神経と時間はどのように関係しているのか。小林教授はさらに次のように説く。
「時間に余裕がないと人は焦り、焦ると呼吸が浅くなります。あるいは呼吸をしていないような状態になる。逆に時間に余裕があると、きちんと呼吸ができるようになるのです。自律神経に大きな影響を与えるのは呼吸ですから、呼吸が整えば自律神経も安定してくる。つまり、時間に余裕を持つことは、気持ちにゆとりを与えると同時に、体のコンディションにも大きく関わってくるのです」
ここに、小林教授が時間を重視する理由がある。予定を管理することは、単に仕事を円滑に進めるためだけではなく、自分の呼吸のペースを守り、自律神経を乱さないための行為でもあるという。
これだけは毎日欠かさない「朝の20分」
「朝がダメだったら、その日は一日ダメ。朝の失敗を昼や午後に取り返そうとしても、それはほとんど無理なんです」
一日の中で最も重要な時間について、小林教授はそう言い切る。自分では普通に動いているつもりでも、朝をきちんと整えたときに比べれば、おのずとパフォーマンスが落ちているという。だからこそ、朝の10分から20分をどう使うかが重要になる。

外科医時代から、小林教授は朝5時起きを基本にしてきた。7時からカンファレンスが始まるため、早朝に起き、大学へ行き、朝食を取り、メールを確認する。休日も同じ時間に起きる。現在も、ゆっくり寝て過ごすことはほとんどないという。朝起きたら、まずカーテンを開けて光を浴びる。そして欠かさないのがコップ1杯の水を飲むこと。
「朝に水を飲むときは、少しずつ飲んでも意味がありません。一気に飲むことで胃に重さがかかり、その下にある腸を刺激してくれる。すると、寝ていた腸が動き出すのです。量はコップ1杯、だいたい150ミリリットルほどで十分です。もちろん無理をする必要はありませんが、自分が飲み切れる量を一気に飲むことが大事です。一気に飲み干すことができれば、水でも白湯でも構いません」
取り立てて特別なことではないが、このルーティンが一日の状態を大きく左右するそうだ。ちなみに小林教授が5時に起きるのは、仕事の都合上、必要だったからであり、夜型の仕事であれば5時に起きる必要はない。大事なのは、毎日同じ時間に起き、同じ手順で体を始動させること。「10時に出勤すればいい人なら、8時に起きると決めればいい。大事なのは、決まった時間に起きて、光を浴び、水を飲むこと。その流れをつくるだけでも、体調はかなり安定してきます」
そして、この朝の20分を機能させるために欠かせないのが、前夜の準備である。朝になってから何を着るかを考え、移動手段に迷い、予定を確認し直しているようでは、朝の時間はすぐに慌ただしくなる。そのため、小林教授は寝る前に「三行日記」を書き、その日の良かったこと、悪かったことを振り返る。さらに翌日の予定を頭の中でシミュレーションする。
「朝に余裕を持つために一番大事なのは、前日の夜です。寝る前に、明日の予定を頭の中で一度予習しておく。天気も見るし、移動の方法も考える。服も決めておく。そうしておけば、朝になってから余計な判断をしなくて済むのです」

朝の20分は、その日のコンディションを決める時間である。夜の準備は、その朝を失敗させないための土台である。最も重要な朝を整えるために、前夜から準備する。小林教授が数十年欠かさず実践してきた時間術は、このシンプルな流れに集約される。
ビジネス同様、大切なのは「検証と継続」
小林教授がもう一つ重視しているのが、「検証」の時間である。人が失敗したり、体調を崩したり、自律神経を乱したりするときには、必ず何らかの原因があるという。「自信がない」「環境が悪い」「体調が悪い」「予想外のことが起きた」「余裕がない」。失敗や不調は、多くの場合、そのいずれかに当てはまる。大事なのは、失敗を悔やむことではなく、なぜそうなったのかを見直すことだという。
「ミスは誰にでもあります。大事なのは、そこで終わらせないことです。なぜ失敗したのか、なぜうまくいかなかったのかを考えないと、また同じことを繰り返してしまう。体調が悪いときも同じで、何が原因だったのかを検証する。そうすると、次にどうすればいいかが見えてくるんです」
健康とは何か、と問われると、今は「継続」と答えるという。1日を振り返り、何ができて何ができなかったかを検証する。特別なことを一度だけ行うのではなく、毎日の中で続けられることを積み重ねる。
「人生は、全て敗者復活戦です。失敗しない人はいないし、乱れない人もいない。大事なのはそこで終わらせずに、もう一度整え直すことです」
小林教授の時間論は、多くのルールに縛られた厳格な管理術ではない。失敗をなくすためのセオリーでもない。むしろ、失敗や乱れ、トラブルが起きることを前提とした実践法である。前夜に準備し、朝に整え、日中に余白を残し、夜に検証する。そうして積み重ねられた時間の使い方が、良好な体調を維持し、仕事の質を高めることにつながるということだろう。自律神経の分野で“第一人者”と呼ばれる賢人は、時間管理においても、やはり第一人者であった。
photograph:Hisai Kobayashi
edit & text:d・e・w
