最近、定期的に運動をしたり、糖質制限ダイエットをしたりと健康に気を配る男性が増えている。これに伴い、日々の生活を記録したいというニーズも高まっている。本格的に運動をする人なら心拍数や走った距離などを記録したいだろうし、そこまでいかなくても、何歩歩いたか、何時間眠ったか……ということをこまめに記録していくことが、健康的な生活につながるからだ。こうした情報を記録するために必要なのが、アクティブトラッカー(活動量計)と言われるデバイスである。最も便利で確実なのは、手首に巻くタイプ。これに時計機能が付き、スマートフォンとつながればそれは「スマートウォッチ」と呼ばれる。
一方、お気に入りの時計がある人にとっては、手首は時計のための場所だろう。スマートウォッチを着けたくても、腕時計と両方腕につけるのは、見た目もイマイチだし何より邪魔だ。だからといって右手と左手の両方に着けるのも鬱陶しい。
「時計もスマートウォッチ(アクティブトラッカー)も、どちらも身に付けたい」……こんな悩みを解決してくれるのが、ソニーの「wena wrist」(ウェナリスト)。一言で説明すると"腕時計のバンドの部分だけをスマートウォッチにしたもの"だ。お気に入りの時計のバンドをwena wristに変えれば、その時計がスマートウォッチになる。例えば、何十年も前に買った機械巻きの時計でも、バンドの部分をwena wristに付け替えれば、たちまち最新のスマートウォッチと同じことができるようになるのだ。なぜこんな製品が生まれたのか? wena projectの事業責任者、對馬哲平氏に聞いた。
時計好きの「悲しみ」から生まれたプロダクト
對馬氏は学生の頃から腕時計好き。一方でガジェットも好きで、腕時計とスマートウォッチを両腕に1つずつ着けていたと言う。「どちらも好きで選べないからそうしていたんですが、世間は2つ着けることを許してくれず、変な目で見られるわけです。それが悲しくて……wena wristはそんな悲しさから生まれたプロダクトなんです」(對馬氏)。
腕時計のバンド部分だけをスマートウォッチにして、好きな時計に付けられるようにする――そんなアイデアを温めながらソニーに入社した對馬氏は、入社1年目の末、シードアクセラレーションプログラムという、新規事業の種を社内で募集するオーディション制度に応募した。100件弱応募がある中で通るのは1つか2つという狭き門を突破して、wenaを開発することが決まり、2016年6月に初代wenaが発売された。
現在のwena wristは2代目ということになる。初代wenaよりも薄くなり、着け心地も自然になった。「基本的なコンセプトは実現されていたものの、(初代を作った)当時はまだまだ時計を作るノウハウがなかったのです。時計評論家の方にいろいろと時計のことを教わったり、シチズンさんに時計の製造技術を一部教わったりしながら、新しいwena wristを開発しました」(對馬氏)
運動をする人なら「wena wrist active」
現在、wena wristは大きく分けて3種類ある。一番機能が少ないシンプルタイプが「wena wrist leather(ウェナリストレザー)」。電子マネー機能を内蔵したレザーバンドで、かざすだけで電子マネー(楽天Edy)の決済ができる。生活防水で、充電は不要だ。
スマートウォッチといえるのは、「wena wrist pro」(ウェナリストプロ)と「wena wrist active」(ウェナリストアクティブ)の2種類。どちらもバンド部分に細長い有機ELディスプレイが付いており、スマートフォンからの通知を表示することができる。Bluetoothでスマートフォンとつながり、1回の充電で約1週間使用できる。
wena wrist proは金属バンドで、パッと見は普通の時計にしか見えない外観。電子マネー機能(楽天Edy、iD、QuicPayなど)が使えるのに加え、スマートフォンに電話やメールの着信があると、振動とともにバンド部分のディスプレイに表示して知らせてくれる。また、一日の歩数や消費カロリー、睡眠状態も記録してくれる。
運動する人におすすめなのが、アクティブトラッカーとしてさらに高機能で、スポーティーなタイプのwena wrist active。wena wrist proでできることに加え、GPS機能と光学式心拍センサーが入っているので、移動距離、平均速度、心拍数も記録できる。ヘッド(時計本体)部分を簡単に脱着できるようになっているので、運動するときや就寝時はヘッド部分を外してバンドだけにすれば、身に付けていても邪魔にならない。防水なので、運動後にそのままシャワーを浴びられるのも便利だ。
wena wristはラグ幅が22mmの時計であれば、基本的にメーカーを問わず取り付けられ、別売りのエンドピースに取り替えれば、18mm、20mm幅も取り付け可能になる。古い時計や、機械式時計でも、バンドをwena wristに変えれば最新のスマートウォッチと同じことができるようになるというのが面白く、最大の魅力だ。
ビジネスシーンでも使えるスマートウォッチ
最近はファッションブランドや高級時計メーカーもスマートウォッチを作っているが、そんな中で對馬氏は「wena wristは、ビジネスシーンでも使えるスマートウォッチなのが特徴です」と話す。確かに、見るからにスマートウォッチ然としているものに比べて、普通の時計のような外観のwena wristはスーツ姿にもよく似合う。
冒頭に書いたとおり、對馬氏は時計好きであり、スマートウォッチに限らずガジェット好きでもある。「wena wristは、アナログ時計の美しさや感性的な価値も、デジタル機能の便利さも分かる人に使ってほしいと思っています。自分くらいの歳の人(注:對馬氏は28歳)が買って下さるのかなと思っていたのですが、実際には40代男性が多いそうです。身に着けるものほど、その人の趣味趣向が出ますよね。時計というのは、自分が好きなもの、自分のこだわりが現れる持ち物です。だからこそ、選べる世界観があったほうがいい。wena wristはそこを大事にしています。もう一つは“生活をちょっと便利にしたい”ということ。ポケットの中にはいろいろなものが入っています。財布とか、鍵とか、スマートフォンとか。全部は無理でも、一部だけでも持ち歩くものを減らしたい。wena wrist activeさえ着けていれば、ランニングに行って飲み物を買ったり、コンビニでちょっとした買い物をしてもそのまま帰って来られる。wena wristで『あれもこれもできる』というつもりはないんです。ちょっとした手間をなくせる、そういうデバイスです」(對馬氏)
現在、wena は日本国内だけの発売だが、對馬氏は海外展開を目指している。ここ数年の時計業界は、スマートウォッチを抜きには語れない。「バンド部分がスマート」という新しいスタイルのスマートウォッチが海外でブレイクする日は、そう遠くないのかもしれない。
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