毎年、新作腕時計を取材していると何かしらの“アニバーサリーモデル”を目にする。今年のバーゼルワールドで印象的だったのが、パテック フィリップである。エレガントスタイルの「ゴールデン・エリプス」がコレクション誕生から50年という節目を迎え、その記念モデルが披露されたのだ。

パテック フィリップを代表するモデルといえば、大抵の時計関係者は「カラトラバ」を挙げることだろう。連載「一流時計店が教える“初めての1本”」でも、読者諸兄にお薦めする1本としてカラトラバを挙げるディーラーもいる。パテック フィリップというブランドへの信頼感、そして誕生から80年以上にわたって基本的なデザインを変えることなく受け継がれているコレクションであることが、彼らにそう言わしめているのだろう。高級時計を代表するシンプルウォッチと言っても過言ではない。

エレガンスの極み。「ゴールデン・エリプス」50周年

今回取り上げるゴールデン・エリプスというコレクションは、パテック フィリップの中ではカラトラバに次いで長い歴史を持つ。初出は1968年のこと。黄金比率(1:1.6181)からインスピレーションを得た楕円形ケースの縦横比、ベゼルレスで丸みを持たせたケースライン、ラグを廃してケースとブレスレットを直接つなげた設計、パテック フィリップではシュヴー(毛髪)型と呼ぶ極細の時分針と同じく細身のバーインデックス……など、大胆かつ優美なデザインが話題となり、その後エレガントスタイル黄金時代の1970年代には多彩なバリエーションが製作された。

そしてこのコレクションの個性を決定づけたのが1977年だった。この年、偏心マイクロローターを備えた薄型自動巻きムーブメント、キャリバー240(厚さ2.53mm)を他のモデルに先駆けてゴールデン・エリプスに搭載。薄型ケース特有の上品さが加わったことにより、エレガンスがいっそう洗練されたのである。

不要なものを徹底的に廃し、大胆さと上品さを高次元で融合したエレガントスタイル。カラトラバがシンプルウォッチの代表格であれば、ゴールデン・エリプスはパテック フィリップが考えるエレガンスの極みを体現したコレクションだと言っていい。

コレクション誕生50周年記念の「ゴールデン・エリプス5738/50P」。プラチナケース。ケースサイズ39.5×34.5mm。自動巻き。アリゲーター・ストラップ。988万円(税別予価)。世界限定100本。2018年秋以降発売予定
ケースバックには、50周年記念を示す特別なエングレーブが施されている。

今年発表されたゴールデン・エリプスの誕生50周年記念モデルにもまた、パテック フィリップらしいエレガンスが薫る。まず何よりも目を引くのがダイヤルの装飾。これは黒七宝の地に、渦巻き模様とパテック フィリップのエンブレムであるカラトラバ十字を思わせるモチーフをハンドエングレーブしたもの。楕円形のような独特のケースに調和するよう巧みにデザインされ、薄型のエレガンスに加え工芸的な美しさまでも備えている。

りゅうずにはブラックオニキスが用いられている。
パテック フィリップのプラチナケースのモデルには、6時位置のケース側面にダイヤモンドがセットされる。

そしてこの時計のもう一つの魅力が、カフリンクスがセットになっている点だ。カフリンクスのフレームはゴールデン・エリプスのケースと同じく黄金比率を踏襲したフォルムで、盤面には記念モデルと同様の装飾が施された。紳士のお洒落とはアンダーステートメントを旨とすべし。派手に主張することなく、それでありながら気品の高さと感性の豊かさを確かに表現してくれる時計&カフリンクスである。

カフリンクスは18Kホワイトゴールド製。時計とのセット販売のみとなる。

このモデルにも注目!

「ゴールデン・エリプス5738」。18Kローズゴールド。ケースサイズ39.5×34.5 mm。自動巻き。アリゲーター・ストラップ。336万円(税別予価)。2018年秋以降発売予定。
ローズゴールド製のカフリンクス。45万円(税別予価)。2018年秋以降発売予定。

ゴールデン・エリプスから、時計&カフリンクスのおしゃれが楽しめるモデルがもう一つ発表された。時計は18Kロースゴールドケースにエボニー・ブラック・ソレイユ文字盤を合わせた、やや華やかな印象のモデル。同じ素材を使用したカフリンクス(別売)もラインアップする。

text:Hiroaki Mizuya(d・e・w)