ここ数年、日本の時計メーカーの開発力に驚かされることが増えている。2011年から出始めたGPS衛星電波受信システムに代表されるエレクトロニクスの分野や、ダイバーズウォッチをはじめとする実用時計の分野で年々進化を遂げているからだ。スイスやドイツを中心とした機械式時計の開発が落ち着きつつあるため相対的に存在感を増しているという部分もあるが、日本の最先端技術や徹底的に突き詰めるものづくりが「何かスゴいことをやってくれそう」という期待感を抱かせるのは確かである。

「年差±1秒」の意味

今年のバーゼルワールドでそんな期待に応えてくれたのがシチズンだった。今年、創業100周年を迎えたシチズンは自らのアニバーサリーを祝うがごとく多彩な新作を発表したが、中でも取材陣を驚かせたのが年差±1秒という史上最高精度に達したクオーツムーブメント「Cal.0100」の発表である。

この年差±1秒がどれほど凄いのかというと、一般に売られている量販のクオーツ時計は“月差”±15秒といったところで、月に15秒、年に換算すれば180秒ほどの誤差が生じても不思議ではない。高精度と呼ばれるクオーツ時計は年差±10秒程度のものからで、年差±5秒ともなれば最高精度と言っていいレベル。そこにきての年差±1秒である。これはもう、究極の精度と言っていい。

バーゼルワールドでの取材時、同社広報担当によると「ムーブメント開発にスポットを当てるため」コンセプトモデルとして発表することになったというが、2019年には実機を発売予定だという。

「Cal.0100搭載コンセプトモデル」。参考出品。
年差±1秒のムーブメント、Cal.0100。ブラック加工の仕上げがモダンだ。
今回新開発した「ATカット型水晶振動子」。温度と重力の変化に強い性質を持つ。

どうやって究極の精度を実現したのか

今一度、一定周期のクオーツムーブメントの仕組みを簡単に説明すると、人工の水晶(水晶振動子)に電圧を加えると起きる振動を電気信号に変換し、さらにその信号を受けたステップモーターが歯車を動かすというもの。この水晶振動子の品質が精度を大きく左右するのである。通常のクオーツムーブメントは「音叉型水晶振動子」を用いるが、これは温度や重力などの外的要因により誤差が生じやすいという弱点がある。

そこでシチズンは温度安定性に優れ、姿勢差の影響が出にくい「ATカット型水晶振動子」に着目。同社のお家芸であるエコ・ドライブによって駆動するATカット型水晶振動子を独自開発した。音叉型水晶振動子が1秒間に3万2768振動なのに対して、ATカット型水晶振動子は830万振動以上のため消費電力が大きく、腕時計に使うことが難しかった。シチズンは独自の技術でこれを克服したという。

シチズンと聞くと世界初のアナログ式光発電ウオッチであるエコ・ドライブの印象が強いが、じつはクオーツムーブメントの精度面でも世界トップクラスの技術を持っている。1976年の時点ですでに年差±3秒のクオーツ時計を発売しており、今年はついに前人未到の年差±1秒を実現。素材開発から設計、検査、調整までが自社で一貫して行えるマニュファクチュールであればこそ到達した新境地だ。年に1秒の違いがそれほど騒ぐことかと思うなかれ。たかが1秒だが、されど1秒である。時計屋が精度追求をやめたら時計屋にあらず。そんな意地とイノベーティブな精神にこそ引かれるのだ。

このモデルにも注目!

「サテライト ウェーブ GPS F990」。スーパーチタニウム(デュラテクトDLC加工)ケース。ケース径48.5mm。光発電エコ・ドライブ。ウレタン・ストラップ。34万円(税別予価)。世界限定1500本。2018年秋発売予定

シチズンが持つ先端技術を物語るもう一つのモデルがこちら。2011年発表のエコ・ドライブ衛生電波時計の性能をブラッシュアップ。時刻修正時などの運針スピードを速め、より快適な使い心地を実現した。ダイヤルセンターのホームタイムと6時位置のローカルタイムは1ステップで入れ替え可能。クロノグラフも備える。

text:Hiroaki Mizuya(d・e・w)