アップルの参入をスイスの時計ブランドはどう受け止めたか

数年前から腕時計の世界を賑わせているスマートウォッチ。米アップル社がApple Watchを発表して腕時計市場に本格参入してきたのは、機械式時計製造を中心とするスイス高級時計業界でも、当時しきりに話題に挙がるほどのインパクトだった。

IT業界という“異世界”からの巨人の出現に対して、スイスの時計メーカー各社はどう対応したか。まず、100万円以上の高価格帯をメインとするハイブランドの多くは「まったく価値が異なるもの」として静観した。一方、10万円程度から50~60万円クラスの時計を作るミドルレンジのメーカーにとっては、想定もしていなかった競合相手の出現である。機械式時計をつくり続ける意義、自社の立ち位置をあらためて見つめ直す機会となった。

そんな中で大きな動きを見せたのが、ルイ・ヴィトンを中核とするラグジュアリーブランドのコングロマリット、LVMHグループである。同グループ内のタグ・ホイヤーが、2015年のバーゼルワールドでインテル、グーグルとともにスマートウォッチ(同グループではコネクテッドウォッチと呼ぶ)を共同開発すると宣言し、翌年には全世界でAndroid搭載スマートウォッチの販売をスタート。それから1年と経たないうちにルイ・ヴィトン、そして2018年は同じくLVMHグループのウブロが同種のハードウェアを使用したスマートウォッチを発表。グループとしてスマートウォッチの分野に乗り出すことを宣言した形だ。

このLVMHグループのほかにもスマートウォッチ市場に参入した時計メーカーはいくつかあるが、それらの大半の製品は既存のスマートウォッチと同じ発想でつくられたもの。つまり腕時計ケースの内部にOSを備えたハードウェアを搭載し、そこにアプリをインストールして使用するというものである。だが今年、それらとは発想を異にする製品が発表された。それがフレデリック・コンスタントの新作、「クラシック ハイブリッド マニュファクチュール」である。

「クラシック ハイブリッド マニュファクチュール」。ステンレススティールケース。ケース径42mm。自動巻き(スマートウォッチ機能は電池式)。アリゲーター・ストラップ。43万7000円(税別)
機械部品と電子部品を組み合わせた新開発キャリバー、FC-750。キャリバーの上部、コイルがある部分がギアボックス、その右にBluetooth用アンテナ、左下にはバッテリーが見える。
「クラシック ハイブリッド マニュファクチュール」には、着脱可能な携帯充電器と、自動巻きのための回転式巻き上げ機能を備える特製ボックスが付属する。

この時計は、一般的なスマートウォッチとは異なり、駆動方式が機械式である。ローターの回転によって巻き上げられたぜんまいを動力源とし、それがほどける力で時刻や日付表示の針を動かすという点は、一般的な自動巻き時計と同じ仕組みだ。

世界初! ムーブメントの状況を知らせる「キャリバーアナリティクス」機能

ではどこが“スマート”なのかというと、その自動巻きムーブメントの一部に電子部品が組み込まれ、スマートフォンと連動することで各種ファンクションが使用できる点である。機械式に電子部品を組み込むなんていう面倒なキャリバーをなぜ開発したのか。その答えが世界初の「キャリバーアナリティクス」機能にある。

機械式ムーブメントは長期間使用しているうちに、歩度や振幅、そして振動に誤差が生じてくるが、このキャリバーアナリティクス機能はそれらのデータを測定し、Bluetooth経由でスマートフォンに送信。測定されたデータを日・週・月単位で確認できるのである。

誤差を自動修正する機能こそ備えていないものの、いずれかの誤差が大きくなればメンテナンスの時期だとわかるし、何より時計の状態が数値化され、技術者でなくても時計の状態をチェックできるというのは思いのほか楽しい。「あの時ぶつけたからかな……」「そろそろオーバーホールに行こうか」など、いうなれば時計と会話できる、そんな新しい楽しみが生まれそうな時計なのである。

キャリバーアナリティクス機能はスマートフォンに公式アプリをダウンロードして使用する。専門用語の解説があるのもうれしい。

毎日の歩数や消費カロリー、睡眠パターンなどを記録

そのほかに、スマートウォッチの一般的な機能も搭載している。主なものとして毎日の歩数や消費カロリー、総歩行距離などがわかる「アクティビティ トラッキング」、睡眠パターンを記録する「スリープモニタリング」、登録した都市の時刻がすぐにわかる「ワールドタイマー 24時間ゾーン」などを備える。

フレデリック・コンスタントは、スイス機械式時計の魅力を広く伝えるという理念のもと、高品質で、価格的にも手が届きやすい時計を製造するメーカーである。一方で、スイス時計メーカーの中ではスマートウォッチ市場にいち早く参入し、2015年には第一弾としてアナログ表示式のスマートウォッチを発表している。その後継機となった今年の新作で打ち出したのは“スイスらしさ”。機械式と電子部品の融合は、これぞスイスの時計ブランドならではのスマートウォッチと言えるだろう。

text:Hiroaki Mizuya(d・e・w)