クロノメーターの歴史はこの時計師から始まった
機械式時計の品質基準の一つにクロノメーターというものがある。これはCOSC(スイス公式クロノメーター検定協会)が行う精度検査をクリアした時計に付与される認証である。現在のCOSCが発足したのは20世紀後半のことだが、クロノメーター自体の概念・名称は18世紀末に、英国人時計師ジョン・アーノルドが製作した「クロノメーターNo.36」を起源とする。当時、圧倒的な精度を誇ったこの懐中時計をクロノメーターと命名したという記録がいまも残されているのである。
この懐中時計を現代的に再構築したのが、ここで紹介するアーノルド&サンの「トゥールビヨン・クロノメーターNo.36」である。むろんCOSC認定のクロノメーターであり、さらにトゥールビヨンを備え、2重香箱により90時間持続を誇る。トゥールビヨンのキャリッジとスモールセコンド、さらに二つの香箱をシンメトリーに配置したレイアウト、立体的なムーブメント、丁寧に面取りされた部品など、美観の面でも特筆すべき点は多い。
かつてジョンが生きた時代、時計に求められたのは精度だった。翻って現代のライフスタイルからすれば、精度に加え長時間駆動、そして美観も欠かせない要素だろう。時代とともに時計の役割も変わるが、その本質を追求する姿勢に変わりはない。
edit & text:d・e・w
photograph:Shoichi Kondo